なの姫とうさぎの おはなし 

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  むかしむかしあるところに なの姫と呼ばれる小さな姫がいました。

 菜の花がきれいに咲いた時に生まれたので「菜の花の姫」と名づけられましたが、

 いつまにか「なの姫」もしくは「なこ姫」と  呼ばれるようになりました。

 姫はいつもお花畑で遊んでいました。花かんざし。花のかんむり に うびわ、くびわ。

 姫が遊ぶ時はいつも うさぎの親子が来ていました。

 姫が花を編んでかざりを作り、うさぎのおかあさんが花の葉っぱを もらって食べる。

 時々姫は 花を編んで こうさぎのまんまるなしっぽに かざりをつけてあげました。

  あるとき うさぎのおかあさんが なの姫に言いました。

 「なの姫。わたしたちは もういっしょに遊ぶことはできなくなったの。」

 姫はおどろいて たずねました。 「うさぎのおかあさん。どうしてなの?」

 うさぎのおかあさんは 答えました。 

 「私たちうさぎは もともと月にすんでたって言う話は前も言いましたよね。」

 姫がうなずくと うさぎのおかあさんは続けました。

 「私たちの一族は その血すじがのこっていて

  ほら この胸もとのひとふさが夜になると きらりと光るのよ。」

 姫とうさぎの親子が 夜に遊んだことはないので、姫はそこが光るのを見たことはありませんでした。  

  「今度のまんまる・満月の夜 月に行くことになったんだ。」とこうさぎが言いました。

   姫は そのまんまる・満月の夜 見送りに行くことにしました。                      

 

 

  姫がうさぎの親子から聞いたとおり、とっかかり山のふもとにたどりつくと 先に何人かのうさぎがいました。

 皆胸もとのひとふさが光っています。 姫が近づいていくと いつものうさぎの親子がいました。

 「見送りに来てくれたんだね!」こうさぎは 喜んで ぴょんぴょん 跳ねています。

 姫はできるなら 自分もいっしょに行ってみたい、と思っていました。

 うさぎのおかあさんは うさぎの長老に会わせてくれました。 長いたっぷりとしたひげが印象的です。

 「やあ。お話は伺っております。うむ」と言って 姫をじーーっと見つめました。

 「姫、あなたも 月に 行かれますか?」  姫はおどろいて「ええ。私も行きたいです」と答えました。

 「よろしい。では」と言って 花を渡しました。姫が受け取ると 花からキラリと光る雫がこぼれました。

 「あ」 と その雫を左手で受け取ると、その左手はふさふさとした白い毛がはえていました。

 左手だけではありません。花を持っている右手も 同じように ふさふさとしています。

 下を見ると 手だけではありません。 胴体も白いふさふさとした毛に覆われて 足まで 同じです。

 「え?」 頭をふりあげると その動きに合わせて長い耳が 揺れるのも わかります。

   なの姫は うさぎになったのです。

 「なあんも 心配することはない。 又ここに戻って 地に足をつけたら もとの姫に戻るのじゃ。」と長老は言いました。

 みんなで とっかかり山のてっぺんに向かって ぴょんぴょんと 跳ね歩いていきました。

 なの姫は 「そういえば 月でなにがあるのかしら?」と思い、たずねてみました。

 「月のどうぶつの集会だよ」 「月にゆかりのある動物がいろんなところから集まってくるんだ」「お祭りなんだよ」

 と 何人かのうさぎが教えてくれました。 
  

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 山のてっぺんは すこし広くなっていました。 広場の中央に長老とその弟子が立ちました。

 空の月がみるみる近づいてきました。不思議な歌が聞こえてきます。長老と弟子がそれにあわせて歌います。

 空から一本の長いロープが下りてきました。 どうやら月から下りてきているようです。

 弟子がそのロープをつかみ その合図に大きな声を出したら 空の月からも同じ声が聞こえました。

 弟子がロープを持ったまま 腕を大きくふりまわしはじめました。 ロープはびゅんびゅんと回ります。

 「さあ。いよいよだ!」

 初めは ひとり・ふたり そのロープの中に ぴょんぴょん入っていき、そのうち 5、6人がいっしょに入っていきました。

 中に入っていった うさぎは しばらく飛んでいるうちに 姿が見えなくなりました。

 「なわとびだわ・・・」と 姫は 思いました。

 うさぎのおかあさんは姫に 「さあ、姫さまも いっしょに月に参りましょう。」と誘いました。

 
 姫は うさぎの親子と 他のうさぎたちと一緒に手をつないで ぴょんぴょん跳ねながら入っていきました。

 びゅんびゅん。  ぴょんぴょん♪

 

 

 ふと 気がつくと あたりの風景が 変わっていました。 

 きみどり色の空。 クリーム色の草。 向こうが透けて見えるようです。

 広場の中央には ロープを持って振り回している 動物がいました。 

 姫は 絵でしか見たことがありません。 それは 龍でした。

 向こうからにぎやかな音楽が聞こえてきました。見てみると くまの太鼓隊でした。胸元が光っています。

 隣にいたうさぎのおかあさんが 「あれは つきのわぐま、と言うのよ。」と教えてくれました。

 なるほど。 胸元に光っているのは 月の輪でした。

 音楽が盛り上がって くまの太鼓隊は そろって月の輪を持って空へ飛ばしました。

  びゅうぅぅぅぅーーー・・・  月の輪がいくつも飛んでいったかと思うと 空の色が水色になり、

 見たことのない位に大きい星が いっぱい現れました。 太陽もかがやいて見えます。

 「なんて 不思議なところだろう・・・」と姫うさぎは つぶやきました。 

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 ある夏の日。  姫は 一人で散歩に出かけました。

 歩いていくと カメと出会いました。名前は「ハワイ」と言うんだそうです。

 カメのハワイに案内してもらい、散歩しました。

 しばらく行くと 姫は のんびりしすぎたのか、眠くなってきました。

 「ふわぁぁぁー」とあくびをするのを見て ハワイは 言いました。

 「君はこの頃 ちょっと忙しかったんじゃないかい? 少しのんびりするといいよ。」

 姫うさぎがやわらかい草の上に ごろんと横になると ハワイはゆっくりした歌を歌いました。

 「♪〜 もしも うさちゃん かめちゃんが 大きな海のまんなかの

  ちいさな島に住んだなら かもめがお手紙届けるよ  〜♪」


 目がさめてから 姫うさぎは ハワイが歌った歌のことをたずねてみました。

 ハワイは「昔 おとうさんから教えてもらった歌なんだ。」と 答えました。

 
 「散歩の途中で 寝てしまって ごめんね」と姫が あやまると 

 ハワイは「いいんだよ。 カメは 皆に リラックスしてもらって 眠ってもらうのが仕事なんだ。」      

 と答えました。

 ハワイと姫は その日 一日を楽しく遊んですごしました。 

 

 

 

  
  ある秋の日。 その日はみんなで だんごを作りました。

 昔から うさぎは もちをついたり だんごをこさえるのが得意などうぶつだったようです。

  「秋はね、 月のパワーが強くなるんだよ。そういう時に みんなで もちをついたり だんごを作って食べるというのは  

 とっても良いことなんだ。」と 物知り兄さんのうさぎが教えてくれました。

 
 ふと 姫は 秋の夜空を見上げて 綺麗な月をながめた時のことを思い出しました。

 「きれいだったなぁー。。。 でもこうして今 月に来てしまって 楽しいけれど。 もうあの月をながめることはできないんだなぁ」

 と姫は 寂しくなりました。

 
 月の世界の夜には 地球がぽっかり 浮かんで見えます。

 「帰りたい」と つぶやき、 涙が一粒 流れました。

 そんな姫のようすに 気がついたうさぎがいました。 ぴょんたです。

 姫は何人かのうさぎと仲良くなりましたが、特に 気があったのは ぴょんた でした。

 

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  姫は ぴょんたと一緒に 月の女神ディアナに会いに行きました。 

 水晶とムーンストーンで できているきらめく城の中に 女神は いました。 

 そして 「帰りたいのです。」と言いました。   月の女神は 言いました。

 「秋になると 月のパワーが強くなって 地球から遊びに来る動物も多いというのに、そなたは どうして  

 そういう時に 地球に帰りたいと 思うのですか?」

 姫は 答えました。 「もう一度 地球からこの月を眺めたいからです。」

 「この月にいるよりも それを望むのですか?」  と聞かれて  姫は 「はい」と答えました。

 まわりの動物たちは おおーー と どよめきました。

 「この天国のような月にいる方が楽しいのに!」と ささやく動物もいました。

 「静かに。」ディアナが言うと まわりは静かになりました。

 「地球から月に来るのも 月から地球に行くのも 本来は 簡単なことだった。

  となりの星を訪ねるのは となりの家に行くも同じこと。 だが今 難しいことのように なってしまっている。 

  しかし、姫。そなたは もともと ひとなのだから、地球に帰りたいと思うのも当然であろう。」

  姫うさぎは 自分はもともとひとだという事を、誰にも言ってないのに ディアナにそれがわかったのか?と おどろきました。

  「なぜ、それがおわかりになったのでございますか?」

  ディアナは 片目をつむって言いました。

  「地球にいる者は 皆 夜空の月に向かって心の中の思いを語るであろう。そして夢がかなうようにと祈るであろう。

  たいてい 眠る前に 祈り そして眠りの中で夢を見る。その時 おいおいにして この月の世界に来ているのだ。

  その祈りは 私のところへ届けられる。そんな私に、そなたがもともと 人だったことを知らない訳がないでしょう。」

  
  姫は 自分の心の祈りが 女神に届いていたという事を知り、 心を打たれました。

  「女神さま。ディアナさま・・・」と言うだけで 精一杯でした。


  ディアナは にっこり微笑んで言いました。 「それが私の役目なのだからね。  さあ、姫。これから広場にまいりましょう。」 

  

 

 


  月の広場のまん中に 女神ディアナが立ち まわりをあらゆる動物が取り囲んでいます。

  女神に呼ばれて 姫が出ると 拍手がおこりました。

  姫は仲良くしてくれたみんなに 握手をして別れの挨拶をしました。

  お世話になった かめのハワイや うさぎのぴょんた と 離れるのは さみしい気持ちです。

  
  今年の 月の輪投げのチャンピオンの つきのわぐまが 出てきました。

  くまが 自分の首に光る月の輪を 行きたいところへ向かって投げ、月の輪が空を一周して手元にもどってきたら 

  くまは自動的に行きたい所に立っている、という 不思議な技ができるのだそうです。

  
  くまは姫うさぎに説明しました。

  「さあ、姫。あなたはこれを持って 『地球に戻る』と念じながら 投げてください。そしたら 輪は 空を飛んで

  あなたの手に戻ってくるでしょう。戻ってきた輪をつかんだ時 あなたは地球にいるでしょう。」

  姫は 「ええ?」と おどろいています。「私に、できるのかしら?」

  くまはにっこりして 「大丈夫ですよ。何といっても私は今年のチャンピオンですからね。」と言いました。


  「地球に戻ったら、その月の輪は どうしたらいいのですか?」と たずねると

  「そしたらね、『月の輪は 元のくまの所へ』 と念じて 投げてください。そしたらひとりでに 私の所に輪は戻ってきます。

  十分 訓練はしてあるから 大丈夫さ。」 と くまは 胸をはって答えました。
  

 

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  くまは首から光る月の輪を はずして姫に渡しました。

  姫が受け取ると 姫の身体の大きさにあったサイズに 小さくなりました。

  姫が感謝のきもちと 地球にもどる という気持をこめて 輪を投げました。

  輪は ぴかーーと光りながら 宙を飛んでいきました。

 

 

 


  光る輪が 音もなく 飛んでいき、見えなくなると同時に

  姫のまわりに 強い光が降り注ぎました。


  ふと気がつくと まわりはお花畑でした。

  手には輪を持っています。

  と、その手は 白い毛がまだはえているし、足はまだ 白い毛でおおわれていて、地面についていません。

  お花畑の上を 浮かんでいます。

  姫は 「輪はもとのくまさんの所へ 戻れ」と言いながら 輪を投げました。

  すると とたんに 着地して、身体も ひとに戻りました。もとの 菜の姫に戻ったのです。

 

 


  姫はひととして 地球にくらすことにしました。

  時間がとまったような、楽しかった月の世界のことを話しても 「夢をみたのね」と誰も取り扱ってくれません。

  だから 小さな子供や 小鳥たちにだけ話して 楽しみました。

  夜空の月を見上げると あの月世界に又 行ってみたいと 少し思うこともあります。

  でも 月の女神ディアナには この地球のすべての人々の夢や祈りが届いているのだという事を思い出すと

  なぜだか寂しい気持はしません。 すべての願いや 心の思いは 自分の内側だけではなく、

  ちゃんと聞く人がいて、伝わり、 届けられ、 そして いつしかその祈りは かなえられるのだと知っているからです。

  
  姫は 離れていても 心の中では離れているという感じがしませんでした。

  いつでも月は空にあり、 夢の中で 訪ねることも出来るからです。そして 月を時々ながめて暮らしました。

 おしまい

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