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海洋冒険ファンタジー

  フ リ ル 〜 歌う魚

2ページ目

フリル1ページ目は こちら

《第5章》 太陽の歌姫
 ファイヤー・オパール

(1)カナデル・シティー
(2)リサイタル
(3)太陽と海の愛

2ページ目制作日:2003/5/26〜30

フリル*3ページ

*

《第5章》 太陽の歌姫 ファイヤー・オパール

(1)カナデル・シティー

めくるめく光のトンネルをくぐりぬけて フリルは白砂の谷とはまったく違う世界に来

ていました。フリルのいるそこは高台になっていました。

フリルの頭の上ずっと高いところにも 下方をのぞきこんで見える所にも さまざま

な大きさ色の魚やいきものが泳いでいました。まるく太った灰色の大きな魚の腹に

は 白いぶち模様があり、ゆったりとフリルの頭の上を通りすぎて行きました。

ぼぉっと見ているとフリルの目の前に黒い大きな魚がやってきて、大きな口をあけ

ました。口の中から藍色の魚が飛び出して来ました。

「こちらぁ、見晴らし台ぃ〜。見晴らし台ぃ〜。やぁ、お嬢さん、君も乗りますか?」

フリルはびっくりしました。大きな魚の口の中から魚が飛び出してきたのですから。

「私はここにきたのがはじめてだから、どこへ行けばいいのか、何があるのか、

さっぱりわからないの。」と答えました。

「それじゃあ、ぼくが案内してあげるから、乗って、乗って!」

フリルは誘われるままに黒い大きな魚の口の中に入り、乗りました。魚の中には

たくさんの魚がひしめいていました。フリルは空いている所に座りました。

「きょうもぉ、ブラックバス1号にぃ ご乗魚いただきぃ 誠にぃ あぁりがとぉ ござ

います。本日のカナデル・シティー観光バスのご案内はこのわたくし、ヤンヤが 

つとめさせていただきます。なお、このバスは終点カナデルホールまでの行程と

なっております。」

さっきフリルを誘った魚が一語一語区切りながら、慣れた口ぶりで話しはじめまし

た。

「また、本日ご乗魚の皆様、お待ちかねのぉ、太陽の歌姫 ファイアー・オパール

のリサイタルが カナデル・ホールで開かれます。」

ヤンヤのこのことばに、周りの魚達はざわめき興奮している様子でした。

ブラックバスの中からシティーの景色が見えました。ブラックバスのうろこの一部が

透明になっていて、外が見えるのでした。

バスは何度か停魚し、そのたびにバスに乗っていた魚は皆バスを降りました。

そしてヤンヤを先頭にぞろぞろと進み、ヤンヤは声を張り上げて建物や庭などの

説明を聞かせてくれました。

フリルにとっては、何もかもはじめてみる景色でした。ある所では 海草と土と石で

作られた建物がそびえたっていました。細長いはさみと足をもつカニ達が、石や

海草をつみあげて高い建物を作っているのが見えました。カニ達は、大きな細長い

はさみで長い海草に石と土をからませて編みこみ、その編み目にうまく8本の足を

ひっかけて高い建物をよじのぼっていきました。

いくつか見てまわった後で皆でバスに戻った時、ヤンヤが言いました。

「皆様、お疲れさまでした。さて、次はいよいよ カナデル・ホールに向かいます。

カナデル・ホールに到着するまでのしばしの間、音楽をお聞きになってご休憩くだ

さい。」

すると静かな音楽が聞こえてきました。フリルはそれがどこから聞こえてくるのか、

などと思うまえに眠くなってきました。バスの中の皆も眠りました。

ブラックバスはカナデル・ホール前に着きました。フリルは皆といっしょにバスから

降りたものの、自分もホールに入って行っていいのかしら、と迷いました。

ヤンヤがフリルに話しかけました。

「お嬢さん、君の分もあるよ。はい、これ」と言って虹色のうろこを一枚渡しました。

「うわぁ、綺麗! ありがとう。これは何ですか?」とフリルは訊ねました。

「これは今日のリサイタルのチケットだよ。綺麗だろ。歌姫ファイアーオパールの

リサイタルは他のどのシンガーとも違うんだ。」ふたりはそろって歩きだしました。

「どんな風に?」

「それは見てのお楽しみ。…それはそうと君のお名前を聞かせてくれませんか?」

「フリル。私はフリルといいます。白砂の谷から来ました。」

「白砂の谷? というと、ジェーンの…白砂の谷かな?」

「ええ、そうです。」と答えてからフリルは驚きました。「え? ヤンヤ。ジェーンを

ご存知なんですか?」

「ご存知もなにも、ぼくはジェーンの大ファンだったんだ。歌姫ファイアー・オパール

はジェーンの弟子だったから、ジェーンの歌魂(シングソウル)を受け継いでいるんだ。」

「それでジェーンは今何処に?」フリルは震える思いで聞きました。

「三産卵前になくなったよ。でもジェーンの歌魂は沢山の魚達のうろこにきざまれて

いる。歌えば歌うほどにうろこは輝くって事をジェーンは教えてくれたんだ。」

ヤンヤがそこまで話した時リサイタルが始まりました。

*

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(2)リサイタル

あたりが暗くなり舞台に灯りがともりました。電光うなぎが輪をえがいて踊りながら

綺麗な色の光を放ちました。その輪のまん中から大きな貝があらわれ、それと同時

に歌声が聞こえてきました。電光うなぎは踊りながら舞台を去っていき、大きな貝が

少しずつ開きはじめました。貝が開くにつれ、まばゆい光があふれ出しました。

開いた貝の中からファイアー・オパールが現われました。

輝く夕陽のような黄金の髪がありました。体の下半分は魚と同じうろことひれでした

が、上半分の体にはうろこがありませんでした。フリルが今まで見た事のない「いき

もの」で、それは「人魚」でした。黄金の髪は虹色のきらめきをまぶし、やわらかに

ウェーブしながら ふさふさと体をおおっていました。

うろこも黄金色でところどころ赤や青や緑に光りました。

目はクリスタルの輝きで、時々青や緑の光を放っていました。

歌姫が話しはじめました。涼しい風のような声です。

「皆さん。こんばんは。今宵もファイアー・オパールのリサイタルにおこしいただき、

ありがとうございます。」 観客席全体から歓声があがりました。

「一産卵に一度のリサイタル、これで三度目ですね。ありがとうございます。私を

育ててくださったジェーンが海と空の彼方・銀河に旅立ってからここでリサイタルを

開かせていただくようになりました。次はジェーンの歌の中から『嵐の旅立ち』を歌

います。」

ホール中が静まり、ファイアーが歌いはじめました。それは不思議な声でした。

ジェーンの歌魂が、ファイアーの歌声とともに、そのホールにいるものすべての心

を吹き抜けていき、すべてのうろこを揺らしました。

* * *

★歌 『嵐の旅立ち』

私のなかを嵐が吹きぬける

旅立ちをうながす潮が吹く

旅立つなら今だ!と告げる、声なき声

追い風の中へ 身を投げよと 言う

すべてを吹き飛ばしてしまおう おそれも涙も 昨日も愛さえも

*

嵐の心でさまよう 嵐の海を

旅立ちをうながす潮が吹く

新しい世界が私を待ってる

燃えるこころで 荒れ来る浪の中に

すべてを吹き飛ばしてしまおう おそれも涙も 昨日も愛さえも

* * *

いくつもの歌が歌われました。暖かな愛の歌や、かなしみにくれる歌など、どの歌も

聴くものすべてのうろこを揺さぶり、またその声はあらゆる海流の音域を越えていく

ものでした。厚い氷の下に流れる海流の音域の歌は厳しさの中で生きていく強さを

物語り、灼熱の太陽光線をあびる海流の歌は 燃える炎に似た情熱を帯びていま

した。そして最後の歌になりました。ファイアー・オパールが話しました。

「皆さん。次が最後の歌となりました。虹の歌です。虹の嫌いな魚っていないですよ

ね。聞いた事ありませんね。《私は虹が嫌いです!》なんて言う話は聞いた事があ

りません。虹というのは海の中だけではないのですよ。空にもかかるらしいですね。

本当の虹というのは海の中だけでなく空にもつながってできているんだそうです。

大きな輪で、海と空の両方に半分ずつ…。可愛い子守唄です」

* * *

★歌 『海と空の 虹』

はるか遠い海の彼方に 不思議な珊瑚の谷がある

白い砂がきらきら光り、 そこに潜って皆 夢をみる

珊瑚の谷の 珊瑚の夢は 海と空を駆け巡ること

広い海と 大きな空を 自由に駆け巡りたいな

珊瑚の夢は 大きな海と空に虹を 作ってしまったの

*

はるか夢のおとぎの話 不思議なことはここから始まる

白い砂がきらきら光り、夢みごこちでねむっているの

珊瑚の谷の 珊瑚の夢は 大きな虹の輪をくぐる事

熱い海と 寒い海を どこまでも自由に泳ぎたいな

珊瑚は夢で 大きな虹の輪をたどり 空まで飛んだの

*

珊瑚の夢よ 珊瑚の夢よ 今宵の夢は あなたと共に

あなたと共に

* * *

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(3)太陽と海の愛

翌日フリルはヤンヤといっしょにファイアー・オパールに会いに行きました。

ホールの近くの砂浜にヤドカリが経営している豪華5貝ホテルの『巻貝ホテル』が

ありました。ヤドカリは砂浜一帯のたくさんの巻貝ホテルを持っていました。

歌姫はそのうちの一番大きな巻貝にいました。

「えっと どれかしら? これは330番、じゃあこの近くね。」

「そうだね、一番大きな白い巻貝だと聞いたよ。あぁ、あれだよ。」

「これからファイアー・オパールに会うのね。本当に会って下さるのかしら?」

とフリルはどきどきです。

「大丈夫だよ。それに君がジェーンの血をひいている、と知って、会いたいと言って

きたのは彼女のほうだよ。」

白い大きな巻貝ホテルがありました。336番プリンセスホテル・エスカルゴと書いて

ありました。ノックすると貝の口が開き、ふたりは中に入りました。

「いらっしゃい。フリルさん。お待ちしていました。」とファイアー・オパールが貝の中の

部屋で出迎えてくれました。「ヤンヤ、あなたもお久しぶりね。どう?お元気?」

ヤンヤと歌姫は知り合いだったようで軽く挨拶を交わしました。

さんにんは さらさらのもずくのソファーに座り 話をしました。

「私がお父さま・海神ポセイドンといっしょに海の神殿に住んでいた時、ジェーン先生

と初めて会いました。」と歌姫はむかしばなしを始めました。

***

★歌姫のむかしばなし

*

私がまだとっても小さかった頃、

お父さまと たくさんの魚のしもべたちと一緒に

神殿に住んでいました。

けれども 「お母さまはいないの、何故なの?」と

泣いてお父さまをこまらせていました。

それでお父さまが 有名な 昔話歌を聞かせてくれるジェーンを 呼んだの。

こんな歌だったわ。

***

昔々ある時、海神ポセイドンが海の果てを旅していた時、

目の前で美しい夕陽が海に沈み、ふたりは出会った。

お父さまとお母さまは 恋をした。

お父さまは恋をして海を真っ赤に染めた。

お母さまはお父さまに恋をして真っ赤に燃えた。

そこであなたが生まれた。

燃える太陽の髪を持つ 太陽と海の子。

お母さまとお父さまは愛し合いながらもいっしょに暮らすことは出来ない。

でも毎日ふたりは会い、愛しあっている。

海よりも深く、空よりも高い愛で。

*

ファイアー・オパールが歌いだすと、彼女自身が言うようにうろこも髪も瞳も輝きだし、

輝く夕陽のようにまばゆい光があたりに満ちました。

*

私は成長して ジェーン先生に歌を習いました。

私は他の魚たちと身体のつくりが違うから歌えるかどうか、

はじめはずいぶん不安だったわ。でもそれは関係ないんだって事がわかった。

歌えば歌うほど、うろこが輝くの。この髪も輝く。瞳も輝く。

***

昔話が終わると歌姫は 一つの貝をフリルの前にさしだしました。それは小さな貝で

した。二枚貝を開けると中から小さな星型の石が出てきました。

紫色のその石は色の淡いところと濃いところがあり、綺麗でした。

「これはあなたに持っていてほしいのです。」とファイアー・オパールは言いました。

「これはジェーン先生が持っていたものなのですが、ぜひあなたに持っていてほしい

と思うのです」

「え、いいのですか? 大事にされていらっしゃったでしょう?」とフリルが言うと

「いいのです」と歌姫は微笑んで答えました。「私はジェーン先生からたくさんの歌魂

をいただきました。ありあまるほどのたくさんの思い出と愛を先生からいただきまし

た。この貝をはじめ、先生のうろこがこもった物は大変いい物だから、大事にしてい

ただける魚にお会いしたら、次の持ち主になっていただけるかどうかとお聞きしてい

ます。」

フリルは「ありがとうございます。」と言うだけが精一杯でした。

帰る前に歌姫はフリルに言いました。「あなたはジェーン先生に似た声をしていらっ

しゃる。だから歌われたらきっといい声でしょうね。」

その時フリルは まだ一度も 歌らしい歌を 歌った事がありませんでした。

魔法使いのシルバー・ビーチといっしょに深い海を感じながら歌った、それが初めて

でした。

3ページ目へ続く

 

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