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海洋冒険ファンタジー

  フ リ ル 〜 歌う魚

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第2部 《第1章》 ぎざぎざたてたて海溝

(1)マンタ 2003/6/23
(2) 鬼ヒトデのばばぁ
(3)鬼ヒトデ ばばぁ の話 2003/6/24
(4)涙
(5)バーバラの花

《第2章》 くらげ達の海・ぽわぽわの夜
2003/07/01

5ページ目制作日:2003/6/23〜2003/7/01

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フリル〜歌う魚 第2部

《第1章》 ぎざぎざたてたて海溝

(1)マンタ

ある穏やかな春の海。ヤンヤの友達のマンタが遊びに来ました。マンタは大きな大きな体で

平べったい四角い形をしています。

「やぁ マンタ。久しぶりだね。」とヤンヤはマンタに長いひれを差し出して挨拶しました。

「おぉ!元気そうだな、ヤンヤ。ぐわぁっはっは」

マンタは体とひれの境目がないような、ひれの先でヤンヤのひれやあたまをぽんぽん叩き

ながら笑いました。マンタは体ぜんぶを揺らして豪快に笑いました。

「こいつは別名・フライング フルムーン〜飛ぶ満月 というんだよ」

「飛ぶ満月?」 フリルは訊ねました。

「海底からマンタが海を豪快に泳いでるのを見ていると、まるで満月がひらひらと泳いで

いってるような、そんな感じに見えるんだよ。」

「おいらの種族は満月の夜には 祈りを捧げる泳ぎを見せる。それでフライング フルムーン

と呼ばれるのは名誉なことだと思う。」マンタの瞳がきらりと光りました。

「マンタの泳ぎはこのあたりの海では一番のんびりしているんだよ。」とヤンヤは加えました。

「本当はね、ゆぅったりのぉんびり、大らかに、泳いでいくのが一番得意なんだ。ながぁい

ながぁい距離を泳いでいく。海の中だけだけど飛ぶように大らかに。…海の外へ飛び出すの

は、ヤンヤにまかせて おいらはのぉんびり海の中をゆぅったり泳いでいくんだ。」

そういってマンタはその大らかな泳ぎを見せてくれました。

それは 本当に大きな海の 果てから果てまでを 悠々とどこまでも泳いでいくような見事な

泳ぎでした。

フリルはマンタの背中に乗せてもらい、マンタの泳ぎの感じを味わってみました。

悠々とした泳ぎでした。高いところから海底を見下ろすと、自分で海面付近に来て海底を

見下ろすのとは少し感じが違いました。

その時フリルはマンタの背中に小さな藻がついているのに気づきました。藻が少し浮いてい

て、その下からぎざぎざの傷口が見えます。傷口はさがっていますが、見ていると痛そうに

見えました。

「マンタ、この傷はどうしたの?」とフリルは聞きました。

「あぁそれ。ぎざぎざたてたて海溝での傷なんだ。藻でかぶせておいたんだけど、取れちゃっ

 たかな?」とマンタは答えました。「フリル、気をつけて傷口にふれないようにしてね。まちが

 ってふれると 今度は君がぎざきざたてたて海溝に行っちゃうよ。ふれられたおいらの傷は

 治っちゃうけど、今度は君が傷ついちゃう。」

と、マンタが話している間にフリルはひれの先が傷口にふれてしまいました。

「あ、痛」 マンタが言うのと同時にフリルもその痛みを感じました。

その時フリルの体は小さくなり、マンタの傷口の中に落ちていきました。

*

(2) 鬼ヒトデのばばぁ

*

気がついた時、フリルはマンタの傷口の中にいるとは わかっていませんでした。

「どこにきちゃったんだろう。私はまた、変な所へ行っちゃったのかな? 私はどうしてこう、

色んな所へ ぴょ〜〜んと行っちゃうんだろう?」 などと ぶつぶつ言っていました。

目に見えるのはぎざぎざとした棘だらけの蔓でした。ちょっと動こうものならその棘がフリル

に刺さりそうでした。

「あ、痛。ふぅ〜、なんて所だろうね。ここは」

ふとフリルの目の前を小さな虫のようなものが飛んでいきました。虫を目でおっていると、

暗い棘だらけの闇の向こうから光る目が見えました。

「あ、あなたは誰?」

「新しいぎざぎざたてたて海溝の持ち主になってくださる方がいらした。ようこそ。」と光る目は

言いました。その目の光はぎらぎらしていて 嫌な感じです。

「わたしは このせまっくるしいぎざぎざたてたて海溝に住んでいる鬼ヒトデのばばぁだ。

けっけっけ」

気色悪い笑い声です。「おまえさんはマンタの次の持ち主だな。今ごろマンタのやつは、せ

いせいしたと言って笑っておるだろう。けっけっけ」

「どういう事ですか?」フリルには訳がわかりませんでした。

「わしは 魚に巣くう傷口に住んでいる鬼ヒトデじゃ。傷口はぎざぎざたてたて海溝の形をし

ている。」と言いながら姿をあらわしました。ばばぁは黒い大きなヒトデでした。全身が黒い

トゲだらけでした。

「う」 フリルは息がつまるくらいに 嫌悪感をおぼえました。

「どうじゃあ。どうじゃあ。わたしの姿は醜いじゃろう。けっけっけ。わたしの傷口は魚から魚

へと移っていく。わたしの傷口が一生癒えないのと同じように、常に私の傷口はひとりの魚

が抱えて生きていくのだぁ!けっけっけ」

「ばばぁさん。あなたの傷口って言うのは? どうされたのですか?」とフリルは聞きました。

「おぬし、わたしの傷口にふれる気かい? よしとくれ! 何とかしようなんてこれっぽちも

思ってないくせに同情するのはやめてくれ。触れないでくれ! 痛いんだから!」とばばぁは

泣きわめきました。

ばばぁが落ち着くのを待ってフリルは言いました。

「わかりました。傷口にはふれません。でもばばぁさん、どうしてこういう事になったのですか?

よかったら話してくれませんか?」

ばばぁはフリルが自分をしっかりと真正面からみつめて話し掛けるのに感動しながら、言いま

した。「おぬし、本気か? 本気でわたしの話を聞く気かい? 今までそんな魚に会った事は

なかった…」

「ばばぁさん、私はあなたさえ良ければお話をお伺いしたいと思っています。」

「それじゃあ、話そうか。」ばばぁは 話し始めました。

*

(3)鬼ヒトデ ばばぁ の話

*

昔むかし、わたしが生まれた時、わたしはすでに鬼ヒトデだった。

鬼ヒトデの子として生まれ育ち、むしゃむしゃとあらゆるものを喰うてきた。

まさに 天真爛漫に鬼ヒトデとして 生きておったよ。

青い海にともに育つ生き物たちの 命をうばうとしても

それが鬼ヒトデの行き方だ。何の迷いも疑問もなかったさ。

*

ある時わたしは ひとりの鬼ヒトデに出会った。

彼は 見るも嫌らしい位に ぎらぎらとして、魅力的だった。

血が出るまでなぐりたくなる。それ位に鬼ヒトデらしい鬼ヒトデだった。

彼は わたしに こう言った。

「きみは 今まで会った中でいちばん 噛みつきたくなる鬼ヒトデだ。

俺といっしょになってくれ。」

わたしらは 毎日 レスリングをして かみつき、蹴りあい、

血まみれになって、愛を確認しあった。

*

それは ある日突然やってきた。

わたしは 彼と 子供たちと一緒に のどかな海底に

出かけていった。いつものように むしゃむしゃと喰うために。

すると見たこともない生き物があらわれて、あっという間に

彼とこどもたちを殺して、わたしをいたぶった。

その生き物は こう言った。

「醜い…。

鬼ヒトデは生きていても何の役にも立たない。

静かな海の安全を おびやかすケダモノだ。」

*

わたしは この海の世界に 生きていても 何の役にもたたない…。

それどころか、害を与える存在なのか…?

*

家族をうばわれ、半殺しの目にあい、鬼ヒトデとしての生と存在を否定されて、

わたしは これから どうやって生きるのだ?

*

わたしは それから 傷とともに 生きる事に決めた。

この傷は決して忘れるものか。

無残に殺された 彼と子供たちの分まで、私は この海をのろって生きてやる。

あいつらの方が 先に 鬼ヒトデを否定したんだ。

だから わたしも あいつらを否定してやるんだ。

*

おぬしは知ってるか?

「のろい」は「時」の流れを止まらせる、と。

時の流れゆくのが のろくなる。

これは本当だよ。

わたしはあの悲しみの時のまま 生き続けている。

もう近頃では、生きているのか死んでいるのか わからない。

*

わたしは 時を止め、永遠に「傷」として生きていく。

この傷は忘れ去ることのないように、魚から魚へと居場所を変えながら

生きていくんだ。

***

(4)涙

*

フリルは 鬼ヒトデのばばぁの話を聞きながら、涙を流しました。ばばぁは フリルの涙を見て

言いました。「おぬし、泣いているのか?」 少しあわてたようでした。

「ばばぁさん、あなたはお辛かったでしょうね。」

「わたしの体験は わたしにしかわからない。この痛み辛さ、この長い時間 ただ呪いだけ

で生きてきたんだ。おぬしに何がわかる……」と言いながら、ばばぁも涙を流しました。

ふたりは共にただただ泣き続けました。今までの全ての時間の 悲しみを 解き放つように。

*

どれくらいの時、そうやって泣いていた事でしょうか。

ふと見ると ばばぁは ばばぁではありませんでした。鬼ヒトデではありましたが、はじめに会

った時よりもみずみずしい力が感じられるようでした。鬼ヒトデのばばぁは、「ばばぁ」ではなく

本当は若い女の鬼ヒトデだったのでした。

「ばばぁさん、あなたは本当は ばばぁさんではなかったのですね?」とフリルは聞きました。

鬼ヒトデは言いました。

「何産卵ぶりかしら、この姿に戻るのは…。あなたがわたしを元に戻してくださったのです。

本当に、どうもありがとう。」 言葉づかいまで変化していました。「私は本当はばばぁではあり

ません。私の本当の名前は バーバラ です。」

「バーバラさん。わたしの名前は フリルです。」

「お名前もお伺いしないまま、長い話をお聞かせして申し訳ありませんでした。」

フリルは笑って首をかしげて返事をしました。その時、フリルのうろこのポケットから小さな

星型の石が出てきました。紫色のその石は、歌姫ファイアー・オパールから手渡されたもの

で、ジェーンの形見でした。

「あ」とその石をバーバラが拾いました。するとその石が光って宙に浮き出しました。

宙に浮いてくるくる回りだしました。すると暗くせまかった海溝が明るく広がり始め、とげとげ

した蔓からトゲが小さくなり始め、みるみるうちに葉が伸び、つぼみが出来て赤い花が咲き

始めました。

*

(5)バーバラの花

*

赤い花は ハミングをし始めました。

フリルとバーバラはハミングに乗って歌い踊りました。陽気な歌です。

***

歌「バーバラの花が咲く」

ぱらんぽん ぱらんぽん ぽん

バーバラ バーバラの花が咲く

花が咲くのに 遠慮はいるものか

咲きたい時ゃ 咲く バーバラの花

* 

ぱらんぽん ぱらんぽん ぽん

バーバラ バーバラの花が咲く

トゲがあろうと 遠慮はいるものか

トゲを承知で 今宵も バーバラの花

***

フリルが歌い踊っていると、自然に体が海の宙高くに上がっていきました。バーバラはフリル

に言いました。

「フリル。わたしはこれから新しいじんせいを生き始めることにしました。昔の傷は傷として、

まだ持ってはいるし、彼や子供たちの事を思い出せば悲しくもなる。でもね、悲しんでも恨ん

でのろっても、家族が戻ってくる訳でもないものね。この傷・痛みと共に生きる。この傷も私の

からだの一部として一緒に生きていくの。時をとめて生きていくのはもうやめます。鬼ヒトデと

して胸をはって生きていくわ。」

「バーバラさん。」

「フリル。あなたはこの光の方向へ進んでいけば元のところへ戻れるわ。私はとげとげたてた

て海溝から出ていくわ。マンタに知らせてね。この前私のところにきた時、驚かせてごめんな

さい、と。」

「ありがとう。マンタに知らせます。バーバラさんもお気をつけて。」

「フリル。ありがとう。さよなら」

ふっと気づくと、フリルはマンタの背中にいました。マンタに一緒に乗っていたヤンヤが横で

寝ていました。そればかりでなく、マンタも眠っていました。眠ったまま遊泳しているのでした。

「あれは夢だったのかしら?」

マンタの傷口を見てみると、ぎざぎざの傷は消えており、代わりに 紫色の星型の模様がで

きていました。

「ふふふ」 フリルは この事は誰にも言わなくてもいいんだな、と思いました。バーバラから

マンタへの伝言だけ伝えたらそれだけでいいのかもしれない、と思いました。

フリルはその夜、マンタに話をしました。

「マンタ、不思議な夢を見たの。夢じゃなくて本当だったのかもしれない、って思うくらいなんだ

けど…。鬼ヒトデのばばぁさんに会ったわ。そしたら、マンタに伝えておいてほしい、て言われ

たの。」 そこでフリルはマンタへの伝言を話しました。

「そうか、≪驚かせてごめん≫ってのが伝言かい?そういやおいら、一度ばばぁと会った事が

あるなぁ。でも、あんまり覚えてないや…。 おいらは嫌な事はさっさと忘れる性分だからね。

ハッハッハ!」とマンタは笑いました。それから付け加えました。「フリル、伝言ありがとうね。」

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《第2章》 くらげ達の海・ぽわぽわの夜

*

ある日、フリルはヤンヤと一緒に 気持ちのいい海を 泳いでいました。のんびりのんびりと

泳いでいました。くらげの海に来ていました。

白いまるいくらげが ぷわぷわと浮かんでいました。幻想的で綺麗でした。

くらげ達は 独特のくらげ語を話していました。

「ぽわぽわ」 「…ぱわぱわ」 「ぽわぽわぽん」 「ぱわぽわぱ」 「ぽぱわ・・・」

やんやはフリルに言いました。「今夜は 一産卵に一度の≪ぽわぽわの夜≫なんだ。」

「≪ぽわぽわの夜≫?」

「そう、≪ぽわぽわの夜≫。くらげ達が星を話す夜なんだ。」

「星を話す?」

「星を話すっていうよりは歌うかな、見ててごらん、わかるよ。」

どんどん、くらげが集まってきました。くらげ語が海のあちこちで囁かれ、くらげの歌が

聞こえてきました。

「ぽわぽわぽぉーー。ぱわぱわぽぉーー。ぽぉぽぉぱーー。」

くらげが歌い出すと 星が出てきました。 くらげの口から小さな小さな星が出てきました。

くらげたちはゆったりとまわりながら歌い、 口から 星を出しました。

小さな星はたくさんくらげの口からこぼれ出て、海を高く上がっていきました。見ていると

海の上、空高くからたくさんの星くずが降ってきて海面の少し上のあたりで海からの星と

空からの星が出会い、星のダンスが始まりました。

海の上の空中では星達が、海中ではくらげ達が踊っていました。海面近くまでのぼってい

くと、高い空ではたくさんの星が海流のように流れていくのが見えました。それがひとつの

川であるかのように、きらきらと光る星達の川でした。

「うわぁ、綺麗。。。」 フリルは はじめて銀河をみました。見ただけでこれが今まで話に

聞いていた銀河だという事はわかりました。

フリルとヤンヤはくらげ達の中に入り、いっしょに踊りました。みんなでまぁるくなったり、

三角の形になったり。小さい輪になってそれが大きく広がったり。

ぽわぽわの夜はふけ、太陽がそろそろ起きるよ、という時まで続いていました。

6ページに続く

 

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