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サラジーナ
〜千夜一夜の風〜

〜4 「夜の魔人」〜

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ジプシー仲間といっしょにすごしていた頃、サラジーナは 東の

砂漠の国にも少し行った事がありました。クリリアント姫の住ん

でいる国から砂漠の国へは、石の山を越えた向こうにありまし

た。その石の山には魔人が住むといわれており、サラジーナは

ばあやからその話を聞いた事がありました。

冬のはじめの風が吹く夜。クリリアント姫はその魔人の住む

という石の山について話をもちかけました。

 

「サラジーナ、そなたの知っている魔人の話を聞かせてくれ。」

とクリリアント姫は言いました。

「はい、わかりました。姫さま」と答えるとサラジーナは窓辺に

立ち、夜空を指さして話を始めました。

「むかしむかし 夜空の紺碧と同じ肌の男がいました。」

 

「夜の魔人」(絵本で見たい方はこちらへ)

むかしむかし 夜空の紺碧と同じ肌の男がいました。深みのある青色の肌で

ところどころ宝石のようにきらきらとした星の輝きがありました。月の瞳のま

わりには流れ星の尾のようなまつげがふちどられていました。

彼の名前は「夜の魔人」でした。夜空の月を規則正しく太らせたりやせさせた

り、流れ星を降らせて夜空を掃除したりしていました。

彼には一度も会ったことがない、こころの恋人がいました。それはすきとおる

ような青空色の肌をもつ太陽の娘でした。彼は決して昼間の世界に足を踏み

いれることは出来ません。この世界を半分にわった、片方が夜の世界で、も

う片方は昼の世界でした。夜の魔人は夕闇から朝やけの世界だけを動かし

ていて、それだけが彼の世界でした。

しかし彼は、昼間の世界で太陽の娘がどんなにこころをつくして雨を降らせ

たか、美しい虹をかけたか、ということを知る事ができるのでした。

それは動物たちや木の葉や石たちが夢の中で教えてくれるからでした。

魔人はある時、石の山のてっぺんに座って考えていました。

「そうだ、昼間の世界にも月をうかべてみよう。」

魔人は夜と朝の境目のところに月を運んで、そっと朝の空の方に押してみま

した。

月は夜と同じようにきちんと空に浮かぶではありませんか。夜の魔人はその

月にひょいっと飛び乗ってみました。空は朝から昼間の空へとうつりました。

すきとおるような青い空の真中にきらきらと金色に輝く太陽がありました。

太陽はランランと明るくあたりを照らしていました。空を飛ぶ鳥たちも嬉しそう

に歌声をあげています。

「おぉ、鳥というのはこんな風に飛ぶんだ。初めて見たなぁ」と月のかげに隠

れた魔人はそっと見ていました。そこへ風が吹いてきました。

きらきらとした光が風の先頭になってこちらへやってくるのが見えました。

どうやらそれが太陽の娘のようです。

すきとおるような青い空の肌の娘です。黄金色の髪はやわらかにウェーブし

て風の動きにあわせてなびいています。髪の先からは小さな花がこぼれ落ち

て行きます。

いつもはみあたらない月が真昼の空に浮かんでいるのに気づいてこちらへ

やってきました。

太陽の娘は昼間の月のところまでくると、そぉっと月にふれて少しずつ足を

踏みいれてみました。

そこでばったり夜の魔人と出会いました。

「や、やぁ。」夜の魔人は長い間あこがれていた太陽の娘に会えたので、そ

れだけ言うと赤面してしまいました。

「あなたはだぁれ?」と太陽の娘がたずねました。

「わたしは夜の魔人。」と魔人が答えました。

「わたしは太陽の娘。いつも青空の風に乗って仕事をしているわ。あなたは

ここで何をしているの?」太陽の娘がまっすぐ夜の魔人をじっとみつめまし

た。娘の瞳は太陽の瞳をしていてまぶしく輝いていました。

魔人はその瞳にみつめられて、少し自分が何か悪いことでもしたかのような

気持ちになりましたが、娘があいかわらずじっとみつめたまま返事を待って

いるので思い切って言ってみました。

「わたしは夜空の月に乗って、昼間の空にやってきました。ひとめ、あなたに

会いたくて・・・」そう言って流れ星の花束を渡しました。でも、流れ星は昼間

の世界では見えないのでした。「あ・・・」と魔人はがっかりしました。

しかし太陽の娘は手をのばして受け取りました。娘の手に流れ星と魔人の手

がふれた時流れ星からきれいな音楽が流れました。

それはふたりがはじめて聞く音楽でした。いつまでも聞いていたいような、き

れいな綺麗な音楽でした。

それから時々夜の魔人は月に乗って昼間の青空にやってきます。そのあい

だじゅう、夜の空には月がないのですが、夜の世界のみんなは「魔人はまた

太陽の娘に会いに行っているんだな」と、魔人の留守をしっかり守っている

のでした。

 

サラジーナが話し終えると、姫は夜空の満月を見ながらため息をつきました。

「今夜の月は本当に美しい。月が昼間の空にかかるのを見たことはあるけれ

ど、このような恋物語が秘められているとは知らなかった。サラジーナ、いい

お話を聞かせてくれてありがとう。」

姫はそう言ってサラジーナにうなずき、部屋を出て行きました。

「姫さま、かたじけのうございます。」サラジーナは腰をかがめながら答え、去

っていく姫のうしろ姿を見送りました。

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