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サラジーナ
〜千夜一夜の風〜

〜8 ポピー 「ぐうたら男と神様」〜

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ある日サラジーナはいつものようにクリリアント姫のお召しがかかり、

王宮の廊下を歩いていました。バラ園のローズソンのことをふと思い

出しました。その時サラジーナの斜め前にローズソンが立っているの

が見えました。ローズソンは手に黒い細かいとげのある花を持って

いました。

「ごきげんよう、ローズソンさん」とサラジーナは声をかけました。

「ごきげんよう。サラジーナさん、今日は珍しい花が届いたのです。」

とローズソンは言いました。

「これは南の国から届いたものなのです。」

「南の国?」サラジーナはあまり南の方には行ったことがありません。

「南の、何ていう国ですか?」

「それはね今から姫様のところへ行きますから、その時お話しましょう。

サラジーナさんも姫様のお召しがかかっておられるのでしょう?」

「はい、そうです。」

ふたりは一緒にクリリアント姫の部屋まで歩いていきました。

 

ローズソンはクリリアント姫の椅子のななめ右の所に立ち、サラジーナは

姫のななめ左に立ってクリリアント姫が来るのを待っていました。

そこへ女官長がやってきて言いました。

「クリリアント姫君さまの おこしです。」

姫がやってきました。

姫は淡いばら色のうす絹でつくった重ね着のドレスを着て現われました。

ところどころ金糸で「米」の形に 刺繍がほどこされていて大変美しく、

それはクリリアント姫にとてもよく似合っていました。

「どうだ、サラジーナ、私のこの衣装は?」

「姫さま、大変美しく、とてもよくお似合いのごようすです。」とサラジーナ

はため息をもらしながら言いました。

「おぉ、そうか。衣装がきれいなのは勿論のことだが、これを着こなせる

のはこの世で私くらいなものであろう。」と姫は満足げに言いました。

「ローズソン、そなたもそう思うであろう?」

「姫さま。姫さまのお衣装はこの花のようでございまする。」とローズソン

は答えて手にもっていたとげの花を見せました。

「何? ローズソン、この衣装がそのとげだらけの花と同じだと申すのか

何という無礼な…!」

「あ、姫さま。これはまだつぼみでございまする。これが花開けば美しい

ポピーの花が咲くのでございます。失礼を申し上げまして、ぼくは何と

言いますか・・・」とローズソンはあわてて頭をさげて、姫にあやまり

ました。その時手にもっていたとげだらけの花(つぼみ)はじゅうたんの

上に散らばってしまいました。

 

姫は玉座から立ち上がったままでローズソンを見下ろしていましたが、し

ばらくじっとしていて、そのままサラジーナを見て言いました。

「サラジーナ、そなたは今ローズソンの言った事を聞いたか。そのとげだ

らけの花がつぼみだと、言い逃れをした。素直にあやまるならまだしも。

そなたもローズソンの言ったことはひどいと思うであろう?」

サラジーナは床におちたつぼみを見て言いました。

「姫さま。彼の言うとおりにこれから綺麗な花が咲くのかどうか、確かめて

からでも遅くはないのではないでしょうか?」

「なぬ? こんなとげだらけのものから花が咲くとでも言うのか」と姫は

いまいましげに言いました。

サラジーナは答えました。

「分かりません。私はこの花については知らないのですから。でも、彼は

うそをつくような人ではない、ということだけは分かるのです。」

そう言って、サラジーナの足元まで飛んできたとげだらけの花(つぼみ)を

ひとつ拾い上げました。

するととげだらけのところから すきまがあいているのを見つけました。

「あ、姫さま、これは!」

みるみるうちにそのすきまが大きく開いて中からあざやかなピンク色の

花びらが現われました。そしてどんどんどんどん花は大きく開いていき、

初めにあった黒いとげだらけのつぼみの殻(から)は落ちてしまいました。

花は開いて開き、丸い太陽のような輝きを見せ、その花芯には黄色い

おしべが満月のように輝きを見せていました。

 

「おぉ!」

その部屋にいた全ての人がその花の咲くようすに驚きました。

サラジーナが持った花だけではなく、床に落ちた他のつぼみも徐々に咲き

始めました。

しばらく花の美しさを楽しんだ姫はおもむろにローズソンの方を向き言いま

した。

「ローズソン、すまなかった。」

ローズソンはあわてて首をふりました。「いえいえ姫さま。」と言うだけがせい

いっぱいでした。

クリリアント姫が手に持っている花と、着ているお衣装はなるほどよく似てい

ました。その花はふんわりとしたうす絹をかさねたような感じでした。

「ローズソン、この花は何というのだ?」

「はい、これはポピーといいまして、南の国から今朝届きました。」

「南の国から?それについてもっと詳しく申せよ。」

「はい、ぼくはバラを育てていますが時々外の国と花について色々な情報を

もらいます。今朝伝書バトの足にこの花がくくりつけられて、ぼくの部屋に

飛んできたのです。南の山と海をいくつも越えたむこうにある国から飛んで

きたのです。」

「それは何という国であるか?」

「ドリカム国でございます。」

「ドリカム国?」姫はそこで左を向いて訊ねました。

「サラジーナ、そなたは知っておるか?」

「聞いた事はあります。たしか夢をかなえるドラムが実る国だとか。」

「何? 夢をかなえるドラム、そんなものがあるのか? それが実る?」

「はい、私の聞いた話ではその国では人々の夢が叶うとき、ドラムという

太鼓を叩くのだそうです。」

「ほぉ。興味深い。それについての物語を知っているか? もし知っている

なら今話すが良い。」

「はい、姫さま。それは昔むかしの話でございます。」サラジーナは話を始

めました。

 

「ぐうたら男 と 神様」

昔むかし 遠い国に貧しい男がいました。

彼はやせこけた土地をもっていました。雨が降らず、作物は何も実りませんでした。

「こんなにやせていてはいくら土地があっても何にもならない」と始終こぼしていました。

そこへ ある夫婦がやってきました。

その土地をゆずってほしいと 男に頼みました。

男は喜んで その土地を夫婦にゆずることに決めました。

夫婦はそのかわりに男に 黒い一粒の種をくれました。

男は思いました。「フン、やせこけた土地だから、その代金は種一つかよ。ま、いいさ。

明日から固い地面をたがやさなくたっていいんだからな。せいせいしたよ。」

男は家に帰って、種を家の裏の空き地に捨てました。

*

土地をゆずりうけた夫婦は あくる日、その土地の真中で歌を歌い始めました。

歌を歌った後、おもむろに耕し始めました。土地は固くなくなり、柔らかな土になったよ

うで、どんどんはかどリました。

それを見ていた男はびっくりしました。

「おりゃ、昨日までおいらの苦労は一体何だったのか。」

夫婦はたがやしおわったら 又歌を歌いました。すると空が急に暗くなり、雨が降って

きました。それどころか雷までなりました。

激しい光と雷の音が響き、あっという間にその土地は 黄金色の麦がたくさん実りまし

た。そして夫婦は麦を収穫しました。

*

男は あっけにとられて 眺めていました。そして夫婦のところへ行きました。

「おりゃ、昨日までこの土地はやせこけて固いからなぁんもできなんだでよぉ。あんたら

ふたりはどんな魔法を使ったんでさ?」

夫婦はにこにこして答えました。

「なぁんも。ただありがたや、って歌って、神様にドラム叩いてもらうだけだんべ。」

「ドラム? あの、ものすげぇ光と音と雨のことかぁ?」

「そうです。神様はドラムを持っていなさって、私らの夢を叶える時、ドドンカドォンと

ドラムをならしてくださる。」

「おりゃ。頼めば、おいらにも叶えてくださるのかなぁ。」

「神様はいつでも私たちの夢を叶えてくださる。だからいつでも夢は口にするといいの

ですよ。ありがたやぁ、ありがたやぁ。」

夫婦は麦の収穫が終わり、家に帰っていきました。

男は夫婦の話を思い返しながら家まで歩いて帰ってきました。

すると家の裏の空き地には大きな木が生えていました。夫婦からもらった黒い種から

芽が出て、一本の木になったのでした。

「どえりゃあ びっくりしたなもぉ。」男はその木にのぼって、ハンモックの網をつけて

眠りました。

*

眠っていると神様が現われました。白い髭もじゃもじゃで白い長衣を着てドラムをかつい

でいました。

「これこれ、こんなところで眠っていては 困るのぉ。」と神様に起こされました。

「あ、すみません。」と言って男は起き上がりました。

「君はここに来たばかりだったね。君の仕事はあそこだよ。」と言って神様は指をさしま

した。そこは雲の上で ところどころ穴があいていて、雲の下が見えるのでした。

「おぉ高い。落ちないように気をつけないといけないねぇ。」と男が言うと神様は腕を組ん

で言いました。

「君、きみ、何のために背中にそれがあるのかね?」

見てみると男の背中には 白い羽根がついていました。

「おぉ! いつのまに」

神様は言いました。

「君はまだ見習いだから頭の上の輪っかはないよ。さて、君の仕事はこの穴から見える

あの男の番をすることだ。それでは」

そう言って神様は消えました。

雲の穴から見えるのは 一人の男でした。男は広い豊かな土地を持っていましたが、

面倒臭がり屋で 文句ばかり言っていました。

「こんなにやせていてはいくら土地があっても何にもならない」と男が言うたびにどんどん

土地に生えている緑の草がしおれていくのが見えました。

「面倒くさい。何もかもが面倒臭い。」と男が言うごとに、空の雲がその土地からどんどん

離れていくのが見えました。

雲の下のその男は 雲の上からのぞいている男でした。

「うわ、何てこったい。」

*

そうつぶやいた時男は目をさましました。目ざめた時木の下にいました。

男は寝ている時、木の上のハンモックから落ちたのでした。頭を強くうち、雲の上の世界

まできてしまいましたが、戻ってきたのでした。

それから男は 夫婦と一緒にその土地ではたらく事にしました。人が変わったように、

よくはたらき、黄金の麦をたくさん収穫し、黄金の麦をこねてパンをつくる奥さんもできて

実り豊かな人生を暮らしました。

 

「それでその国ではその後 夢がかなう時ドラムを叩いて祝うのだそうです。」

と サラジーナは 言い、物語は終わりました。

「そういえば 姫さま」と女官長が言いました。「メロディアンナがドラムを持って

いました。」

「おぉそうか。それではメロディアンナをここに!」

それから メロディアンナとサラジーナを中心に歌と踊りと音楽がくりひろげら

れました。

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