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サラジーナ
〜千夜一夜の風〜

〜9 狼の遠吠え〜

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ある日、サラジーナは姫のところへ行くと、その日も外国からさまざまな品が届いて

いました。姫の前に丸いじゅうたんがしかれ、その上に色々な品が山のように積ま

レていました。

姫は細くとがった棒のようなものがいっぱい出ている大きな貝がらに興味を持った

ようです。

「ほぉ これは大きな貝だな。これは何というのだ?」と姫は訊ねました。

じゅうたんのそばに立っていた体のまるい大男が答えました。

「はい、これは狼笛と言います。この貝からつきでている、するどいとんがりが、

狼の牙を思わせるからですが、それだけではなくてこの貝を吹くと狼の遠吠えのよう

な音がするからです。」

「ほぉ、狼の遠吠えか。面白い。しかし、なぜ父上はこの品に興味をしめさなかった

のか…?」

その日姫の前に届いたものは王様のもとに届いたもののおさがりだったのです。

「は、それは、王様の前でこの貝を吹かせる者がいなかったからでございます。」

「なんだと。この貝はただあるだけという事か?」

「は。その通りで…」

*

男がさがった後、姫はサラジーナの方を見て言いました。

「サラジーナ、これは狼貝だそうだ。狼というのは聞いた事はあるがどんなものか?

おまえは知っているか?」

サラジーナは答えました。「私は昔ジプシーとして暮らしていた時、何度か山の中で

狼の遠吠えを聞いた事があります。」

「ほぉ、それは 一体どういう声なのだ?」

サラジーナは、遠吠えの声をまねてみました。

「ぅぉおおおおぉー・・・ ぉおおおおぉおおぉぉん・・・」

それはどこか遠くから響いてくるような声でした。

「ぅうぉおおおぉぉぉんんん・・・ ぅぅうおぉおぉおぉぉぉんんん・・・」

物悲しい、哀れな声でした。サラジーナは遠吠えの声を出していると段々内側から

悲しみや苦しみ、何ともいえない葛藤の思いがわいてきました。サラジーナは涙を

流しながら、いつのまにか狼そのものになったように、遠吠えの声がたくさん出てく

るにまかせていました。

本当の自分はなにものなんだろう? 本当のお父さんやお母さんはどこにいるんだ

ろう? この王宮にいる事は自分にとって安全な事だけれども、本当にそれでいい

のだろうか? ずっとこのままここにいていいのだろうか? かといって、どこをどう

探していいものやら当ては まだないままなのだ・・・。

そういう思いがよぎりながら、遠吠えの声を出しつづけました。どれくらいかの間、

声を出して、出して、出し切ったと思い、ふと我にかえり、目の前の姫を見ると、姫

はサラジーナといっしょに泣いていました。

「姫さま…。」サラジーナは呼びかけました。

クリリアント姫は玉座からおりてサラジーナのところへ歩いてきました。

「サラジーナ。そなたも胸のうちに 色々な思いがあるのですね。そなたの遠吠えを

聞いているうちに、私は胸がつまって、何とも言えない気持ちになった。今まで私は

この世界の中で私だけが苦しみや切ない思いをもっているのだと思っていた。そう

ではないんだな。サラジーナ。私だけが苦しい思いをしていると思って、そなたにも

辛くあたった事があったかもしれないな。ゆるしてくれ。」

「姫さま。勿体のぉございます。」

「サラジーナ」

「姫さま」

涙のまま その夜はふけていきました。

10につづく

 

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