Copyright(C)2001-2003 Yumeringo's "Iihi Tabidachi"&"Yumeringo's World" All rights reserved
作者の承諾なしに作品の一部ないし全てを転用引用する事を 固く禁じます。

サラジーナ
〜千夜一夜の風〜

〜10 自由に踊る〜

サイトマップへ サラジーナの目次へ 9に戻る

サラジーナはその日クリリアント姫から休みをもらい、久しぶりに王宮から出て

町に出ました。広い青空の下をゆっくりと歩きました。

「青い空。どこまでも青い広い空…。」

サラジーナはうんと伸びをしました。

そして王宮で仕事をするようになってから王宮の窓でしきった空しか見ていなか

った感じがしました。

「るるるるるる…

  ららららら…

    るるるるる…

      ららららら…」

市場の道を歩き、町じゅうをどこというあてもなく自由に歩きながら こんな事を

考えていました。

「王宮の中はきゅうくつという訳ではない。

いやな事を無理やりやらなきゃいけない、というような事もない。

とっても 楽だし、いごこちがいい。

ジプシーだった時の方が 飢えたり寒さに身体をちぢめこませて震えたり

色々 辛い事もあったわ。

でも、

仲間達と一緒に

風のように 時には 空の一部になったかのように

歌い 踊るという事は なくなったな。

姫さまの前で歌い踊るのは

姫さまのための踊り。

最近は 自分のこころの踊りを 踊った事がないようだ…」

 

「自分のための 歌。

自分のための 踊り。」

そうつぶやいたとたん、サラジーナは突然踊りたくなりました。

そこは市場のはずれで、人通りがありませんでした。

サラジーナの頭の中で パトリッシュがギターをつまびき、マリヤーナが歌い、

そしてサラジーナは、情熱的な生命力のほとばしるような踊りを始めました。

パトリッシュの激しい切ないギターの音色、マリヤーナの胸をゆさぶる歌声が

サラジーナを動かしました。足をせわしく踏みしめながら何度も身体をくねら

せてまわり、手は風のようにそよめいて踊りました。

踊れば踊るほどに身体は自由に動いて、鳥が空を飛ぶように、はばたき、

サラジーナの来ていたドレスのすそは、花が咲くように、開きました。

*

踊りおわった時、サラジーナのまわりにたくさんの人がいました。サラジーナ

が踊っている間に多くの人がひきつけられ、集まって来たのでした。

サラジーナは知らぬうちにたくさんの人々に囲まれて踊っていたのでした。

サラジーナは 熱意あふれる拍手と 喝采に包まれていました。

 

「サラジーナ!」

まわりの人々の中からサラジーナを呼ぶ声がありました。見てみるとそれは

ナジータでした。ジプシーから離れてひとりでこの国に来た時、サラジーナは

最初にこのナジータの出店を手伝う事で生きる道を見つけたのでした。

多くの人々の歓声をふりきるようにサラジーナはナジータとそこを離れました。

人々は彼女に声をかけました。

「おぉい、また見せてくれよ」

「そうだともよ! おいらもあんたの踊りをまた見てぇよ」

サラジーナは人々の方を振り返り、クリリアント姫の前でするような丁重なお

辞儀をしてみせました。

「ありがとう! ありがとう、みなさん」

 

サラジーナはナジータと一緒に彼の家に行きました。家はあいかわらず昔のま

までした。

「ナジータ、でも、いいの? まだ店の時間でしょ?」とサラジーナは遠慮して言

いました。

「なに言ってるんだい。こうして久しぶりにおまえさんに会ったというのに、のん

びり野菜なんか売ってられるかって言うんだい。さぁ入って入って。そこに座り

なよ。適当にくつろいでおくれ。」

「はい。」

サラジーナは素直に座り、ナジータのいれてくれるチャイを飲みました。

*

「それにしてもおまいさんは 随分成長したな。わしのところにおった時は、あ

んたはいくつだったっけ?」

「12歳だったわ。」

「ほぉ、で、今はいくつだ?」

「15歳よ。」

「おぉ、もう3年たつのか。やっぱりな。特に女の子はこの年頃は成長が早い

な。昔あんたが踊るのを見た時、うまいなって思ったよ。しかし、さっきのは

ちがったよ。あんたはもはや子供じゃない。大人への道をしっかり歩みだして

いるって事だな。さっきの踊りを見れば分かる。サラジーナ、色々あったんだ

な。おまいさんの内側のもがきとそれを超えていく強い力を感じたよ。」

「ナジータ」

「ん、なんだい?」

「ありがとう。大好きだよ。」

「ん。ん。わしもおまいさんが大好きだよ。」

サラジーナは王宮での暮らしを少しナジータに話し、ナジータも自分の暮らしぶ

りについて話をして、夜もふけていきました。

 

夜、サラジーナはナジータの家の一部屋に泊めてもらう事にしました。そろそろ

寝ようかという時になってナジータは訊ねました。

「サラジーナ、おまいさん、誰かいい男いるんじゃねぇのか?」

「え? いないわよ。そんなの。」

「本当か?」とナジータはサラジーナの顔をじぃっと覗きこみました。

「あ、赤くなった。いるんだな、やっぱり」

「いないわよ。」

「いないんだったら何で赤くなるんだ?」

「ナジータがそんなに覗きこむからよ。」

「わしみたいなじぃさんが顔をのぞきこんだからといって、顔が赤くなるものか。

そうか、そうか、いるんだな。わしは安心した。」

「ナジータ!」

「いいんだよ。おまいさんが認めたくない、て事なんだから。認めてしまった方が

楽だよ。」

「・・・・・・」

「おやすみ。」

「おやすみなさい。」

 

あくる日の朝、サラジーナは王宮に帰っていきました。11へ続く

 

inserted by FC2 system