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サラジーナ
〜千夜一夜の風〜

〜13 風の宮殿へ〜

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翌朝早くめざめたサラジーナは ナジータじいさんといっしょにめざめのパン

を食べました。

「むしゃむしゃ おいしいわね。これ、むしゃむしゃ。」

「もぐもぐ そうじゃろう。これはな、んぐっぐ。」のどを詰まらせたようです。

「ナジータ、これを飲んで。」

チャイを飲んで ほっと一息ついて続けました。

「すまんの。サラジーナ、年をとるとのどがつまりやすくなるな。ん、と、これはな

市場の新しくできた店のパンだよ。ほら、こないだ話した大巨体の。」

「あぁ大巨体の夫婦の店なのね。」

「そう身体も大きければパンも大きい。もうひとつあるからこれを持っておいき」

「ありがとう。ナジータ」

「風の宮殿とやらにはおまいさんの好きな…は来るのか?」

「な、何を言うのよ」

「あ、赤くなってる。」

「なってない」

ふたりは言い合ってからサラジーナは出かける用意をしました。

「サラ、気をつけてな。」

「はい、ナジータも気をつけて。」

「おぅよ」

 

サラジーナが王宮の前につくと、またもや女官長の声が聞こえてきました。

「姫さまっ王宮の外に出てはなりません!」

「いいえ、私は行きます。お父さまもいいとおっしゃったのですから」

クリリアント姫と女官長が象の前で言い合っていました。

「王さまが何と言いましてもわたくしが許しませんっ!」

「女官長、おまえはいつから王より偉くなったのじゃ。」

「そんな事を言って・・・」

「王宮の外へ出たら空から大きな大きな空の魔人がおりてきて、その大きな足

で踏み殺されてしまう、なんて話はもう信じませんからね!」

「姫さま・・・」

クリリアント姫は 目を丸くして立っているサラジーナをみつけてにこにこしまし

た。

「サラジーナ、よぉ来たのぉ。待っていたぞぇ。さぁさぁ行こうぞ。」そう言うと

姫は身軽に象の上に上りました。

「姫さまぁ。そのようなサルのような事は断じて…」

女官長の声を聞き流して、姫一行は出発しました。女官長は姫一行が王宮か

ら遠ざかっていくのをじっと見ていましたが、そのままおとなしく見ていません

でした。

「姫さまぁ〜!」叫びながら姫一行の後を追いかけていきました。

 

たくさんの下男と召使と たくさんの食べ物を用意して 姫一行は進みました。

象はたくさん歩きますがゆっくりしか歩けない為 旅はのんびりムードでした。

日が高くなり、林のあるところで休憩をしました。

「姫さま。朝女官長さまとお話しされていた、空の魔人っていうのは?」

とサラジーナは聞いてみました。

姫は王宮からでた解放感からかサラジーナのすぐ横に座って答えました。

「私がまだ小さい時、王宮の窓から外をながめては おんも見たい と言って

さんざん困らせたの。そしたら女官長が『姫さま、外にはこわい空の魔人が

いるのですよ。』と話して、外へ出てはいけません、て……。」

「『空の魔人』て『夜の魔人と太陽の娘』のお話に似ているような…?」

「そう。でも女官長は空の魔人は怖い大男で、人をひょいっとつまみあげて

喰ってしまうのだ…というお話にして私に聞かせていたのだ。」

「そうだったのですか。」

「青い空と同じ色の肌をもつ男。冷酷な大きな青い男、『空の魔人』。それがそ

なたの話では、青空と同じ色の肌の娘、『太陽の娘』と、夜空と同じ色の肌の男

『夜の魔人』だったではないか。まったく…」

姫とサラジーナは話をしながら、象のお尻の後ろに隠れている女官長の姿を

目のはしでとらえました。

「でも姫さま、女官長さまは幼い姫さまの為を思って」とサラジーナがそこまで

言った時、女官長はふたりの前にさささっと現われました。

「そうです。姫さま、わたくしはっ…。お后さまがお亡くなりになり、王さまから

姫さまの母君がわりのつとめをまかされまして。せいいっぱいつとめさせてい

ただきました。」

女官長は涙ながらに語りました。

姫ははじめ頬をふくらませていましたが 女官長の言うことに耳を傾けている

うちにぷんぷんしたようすがやわらいできました。

「そうか。女官長。そなたには苦労をかけたな。」

「姫さま。」

女官長は涙を流し、ハンカチで拭きました。その時ハンカチを見て「あ」と言い

ました。

「あ、これは」サラジーナに返そうと思ったハンカチをまた使ってしまったわ、

ごめんなさいね、洗ってお返ししますね、と身振りで説明して象のお尻のむこう

に戻っていきました。

 

その日の夜大きな大きなテントの下で 姫とサラジーナがチャイを飲んでいまし

た。女官長はかたわらにいましたが、旅の疲れからか、眠っていました。

サラジーナは姫に風の宮殿のことを訊ねました。

「姫さま、これから参ります風の宮殿というのはどういったものでございましょうか」

「風の宮殿というのは、教育係のジルベルによると前王の宮殿だという事だ。

詳しいことはジルベルから聞くといい。そうだ、ジルベルを呼べ。」

姫は女官のひとりに命じました。

やせ細った背の高い男が入ってきました。

「姫さま。ジルベルにございぃ。」

男はかしこまって姫に挨拶をしました。

「ジルベル、風の宮殿のことをもういちど聞かせてくれたまえ。」

「はっ。かしこまりましてございまする。」

 

「昔々王さまがまだお若くっていらした頃このあたりは ハイアーランドと呼ばれてい

ました。ハイアー王家が支配していました。風の宮殿はそのハイアー王家の王宮

だったのでございます。」

「それでは風の宮殿はそのハイアー王家のものだったのじゃな」とクリリアント姫は

たずねました。

「はい、そのとおりでございます。さすが姫さま、ご理解のはやい。」とジルベルは

もちあげました。

姫はきげんよく、にこにことして「そうじゃ。私は頭がいいクリリアント姫だからな」と

言い、続けてジルベルに話を続けるよう、言いました。

 

「ハイアー王家は長く栄えたのだが、パンプキン王様がまだ皇太子さまだった頃、

急に滅びてしまったのじゃ。」とジルベルは言いました。

「何があったのじゃ?」と姫は訊ねました。

「王家にはその頃姫君がお生まれになったはずなんだが、何者かにさらわれてし

もうたんじゃ。」

「おぉ。」と姫はうめき、「続けて」と言いました。

「ハイアー王がある日殺されてしまうたんじゃ。誰のしわざかわからん。後継ぎはそ

の姫君になるのは誰がみても当然なのじゃが、ハイアー王を殺した者がその姫君

をも殺そうとするのは、予想できる事じゃ。」

とジルベルは腕を組みながら言いました。

「おぉお!」と姫はうめき、「そうだな、続けて。」と言いました。

「ハイアー王家のお后さまは誰にもわからぬように幼い姫君を隠されました。自分

のまわりのしもべや沢山の召使は、魔法をかけられてお后さまをないがしろに

しだしたので、お后さまは身の危険を感じられ、パンプキン王家に手紙を書かれ

たのじゃ。」

「おぉ、その悪いやつは魔法を使うのじゃな。」と姫は興奮して言いました。

「ドキドキしてきたぞ。サラジーナ、手を握ってくれ。」と姫はサラジーナと手をつなぎ

ました。サラジーナもドキドキしてきました。もしかしてその姫君は自分のことじゃな

いか、と思ったからです。

「まだ皇太子だった王さまは、ハイアー家のお后さまを助けようと兵隊をたくさんむ

けて風の宮殿まで乗り込んだのだが、時すでに遅し…」

「おぉ、何があったのじゃ」 姫とサラジーナは身を乗り出しました。

「お后さまにはどうしても魔法がかけられなかったので、その悪いやつはお后さま

を殺してしまったのじゃ」

「おぉ何という…。その悪いやつはそれからどうなった?」

「分からん。ハイアー王国は滅びてしまったので、その領地はパンプキン王家が

おさめているが、その姫君のゆくえがわかったら領地は姫君に返す、と我がパン

プキン王さまはおっしゃっておられる。」

「そういう所だったのか。知らなかった。なぜもっと早く私に話してくれなかったのだ」

「は、姫さま。申し訳ございません。がしかし三日前申し上げましたところ、姫さまは

途中で眠っておしまいになりまして…」

「何…」クリリアント姫は咳払いをして 聞かなかったような顔をしてサラジーナの方

を向きました。

「サラジーナ、これで風の宮殿のことは分かったであろう。」

「はい、姫さま、ありがとうございます。でも、そういういわくつきの風の宮殿に私たち

が行っても大丈夫なのでございますか?」とサラジーナは訊ねました。

「それは大丈夫でございます。ハイアー王家を滅ぼした悪いやつはもうその宮殿に

はいないようでございます。」

「ジルベル、なぜわかるのだ?」とクリリアント姫はジルベルにつめよりました。

「パンプキン王家の領地になってから、我が王家の別荘として使えるように手を入れ

たとかで、大丈夫でございます。工事を担当した者からも別に何の危険の報告もあ

りませんでした。」

「そうか、それなら良かった。が、しかし、惜しいな。」と姫はつぶやきました。

「は?何故でございますか?」とジルベルは訊ねました。

「そのままの姿で残っているのを見れないのが残念だ。」

「そのまま放っておきますと、ものすごい埃や汚れで、とても姫さまに来ていただける

ような状態では…」とジルベルは眉をひそめて言いました。

「なるほど。ジルベル、ご苦労であった。」

「は。かたじけのうございます。」とジルベルは礼をして去りました。

すると同時に真っ赤な顔をした女官長が入って着ました。

「姫さま! いけません。危険でございます。」

「おぉ、また女官長か。」と姫は言いました。

それからしばらく姫と女官長は サラジーナの前であぁだのこうだのと言い合いまし

た。時間がたてばたつほど女官長は疲れてきて、若い姫の勢力が勝利となりました。

「さぁ、寝よう。明日の朝はやくに出発だ。」と姫は言いました。

 

翌朝はやくに出発したクリリアント姫一行はお昼まえに元ハイアー王国の宮殿だった、

風の宮殿につきました。そこは少し小高い丘の上にあり、クリリアント姫がいつも住んで

いる王宮のあたりにはない花が咲いていました。背の低い黄色い花が一面に咲いてい

ました。

「ほぉ。これはきれいな」と姫は喜び、ジルベルを呼びました。

「これは何という花じゃ?」

「は、これは ダンデライオンという花でございます。」

「ダンデライオン?変わった名前じゃな。私は『なんでライオン?』と聞きたくなったぞ」

「そうでございますね。わたくしめも分かりかねます。」とジルベルは手をもみもみ答え

ました。

「おまえでも知らない事があるのか?」と姫は言いました。

「は。申し訳ございませぬ。全ての事をご存知なのは天の神だけでございます。」

と言ってジルベルは空を見上げました。

姫とジルベルが話している間、サラジーナは白い綿毛になった花をみつけふぅ〜っと

息を吹きかけたりして遊んでいました。綿毛は飛んでいき、姫が見上げている青い空

をよぎって飛んでいきました。風が吹き渡り鳥が飛んでいくのが見えました。

「るるる・・・」

サラジーナは鼻歌を歌い、黄色いお花畑をねころがったりゆっくり回ったりしながら

楽しんでいました。

こんなにのびやかな気持ちは久しぶりでした。サラジーナは姫とジルベルがあぁだこう

だと言うのを待っている間に、自然の空と大地と一つになったような気分を味わってい

ました。

 

しばらくしてクリリアント姫とサラジーナ達は宮殿の中に入っていきました。

宮殿の中はパンプキン王の下僕が手入れをしたせいか綺麗に掃除が行き届いていま

した。天井が高く、ステンドグラス越しに太陽の光が宮殿の中にさしこみ、美しい華やか

な光の花が部屋のまん中に咲いているようでした。

いくつかの部屋を見ていきました。どの部屋もきれいな花のステンドグラスがモチーフ

に使われており、綺麗でした。

「ほぉ。これはまた、美しい…」と姫はため息をつきました。

「そうでございますね。」といつのまにか女官長さんが姫のすぐそばに来て歩いていま

した。サラジーナとジルベルはふたりを見て、クスクスと笑いました。

いくつかの部屋を見て歩くうちにサラジーナは何やら胸もとで動く感じがしました。それ

はサラジーナの首からかけている石のブローチでした。その石は花の彫りがしてあり

花の形になっているところは赤い色で葉の形の彫りの部分は緑色になっているもので、

自然に色が分かれている石をうまく加工して彫ったもののでした。

サラジーナは誰にも見せた事のないその石のブローチを胸元から出してみました。

するとその花の部分がいつもより色が濃くなっていました。

一行はある扉の前で立ち止まりました。

「この扉はいわくつきの扉のようで誰も開ける事ができません。」

とジルベルが言いました。

その扉のはドアノブというものがありませんでした。複雑な穴がひとつありました。

「これはどうやら鍵穴のようです。」とジルベルが言いました。

「なんだ、この先は行けないのか」と姫が言いました。

その時サラジーナの持っている石のブローチが光り出し、ひきよせられるような力を

感じました。サラジーナはひかれるまま歩いてみますと鍵穴のあるところまで来てしまい

ました。

「サラジーナ、そなたは何を持っているのじゃ?」と姫は聞きました。

「姫さま、これは私の両親が私に残していってくれたもので…」と言ったところでぐいっと

ひっぱられるように手が動かされ、花の形をした石のブローチは鍵穴に入りました。

穴のどこか一部にその花の石がぴったりあうようになっていました。ぴったりあった瞬間

鍵穴のあたりが光り、扉が開きました。

「おぉ!」「あぁ開いた!」

一同が驚きの声をあげ、その場にこおりついたように足を止め見入りました。

そこに見えた光景は 光と闇のたたかいでした。

 

まばゆい光が満ちていました。

光の中に一人の美しい女性がいて何かにかがんでいるのが見えました。

「ほらほぉら、サラジーナ。可愛いわたしの天使。」

小さな籠の中にいる赤ん坊をあやしているようでした。

そこへ不穏な黒い空気が漂い、黒い影がさしました。

「わたしのサラジーナを守らないといけない!ばあや、お願い、この子をジプシーの中に

ひそませてかくまってください。早くみつからないようにお願い!」

女性は小太りの女性に赤ん坊を渡す光景が見えました。

「あぁ、サラジーナ、私の天使。神様どうかあの子が無事でいられますように!」

女性が祈ったすぐ後、黒い影にまわりを取り囲まれてしまいました。

黒い影から声がしました。

「后よ、私の妻になれ!」

「お断りします。私の愛する王を殺したシャドウ・ロード!

私にほんの少しもふれることは許しません」

「ぬぬ!影の王国の王に向かって…」

「影が何です。

どんな闇も小さなろうそくの灯ひとつあればうせてしまうのです。

影は光には勝てないのです。

たとえあなたが光のハイアー王を殺したとしても

その事は変えようのない事実なのです。」

「くそ、いまいましい女め!おまえに死の魔法をかけてやる!」

黒い影が女性をのみこみ、やつざきにしようとした時

その瞬間、

それを見ているサラジーナが手にしている石のブローチから光が飛び出して、

黒い影を攻撃しました。時空を越えているようでした。

「うわぁあぁ! どこからこんな光が… さては王の娘の力か?

うわぁああぁ! おぉ!」

黒い影が消えうせました。

あとには何も残りませんでした。女性の姿もありませんでした。

ただひとつ小さなダンデライオンの花が咲いていました。

みるみるうちに花は白い綿毛になり、どこからともなく吹く風に乗って

ふわふわと飛んでいきました。

 

見えていた場面が終わり、一同が目にしたものは古ぼけた家具が置いてある部屋でした。

赤ちゃんのための小さなベッドや家具。それらは白い布に白い花がおりこんである可憐な

ものでした。

サラジーナには分かりました。それが自分がかつて着ていたという赤ちゃんの産着の布と

同じものであるという事が。

ただ涙があふれ止まりませんでした。小さく「お母さま、お父さま」と呼びました。

クリリアント姫もジルベルも女官長もサラジーナが本当はハイアー王国の姫であるという

事がわかりましたが何も言わず、サラジーナを見守りました。

クリリアント姫は サラジーナの肩に手をまわし、二人で抱き合いながら泣きました。

日は静かに暮れてゆき、一同はテントに戻って夜を過ごしました。

14に続く

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