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サラジーナ
〜千夜一夜の風〜

〜14 ハイアー王国の姫〜

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その夜クリリアント姫はサラジーナを呼びました。

「サラジーナ。いや、ハイアー王国の王女サラジーナ姫。

今までは私の召使のひとりであったが、このハイアーランドを治めるべき方だと

わかった以上、いつまでも今までのようにしていてはいかん、と考えた。

よってこれよりそなたは自由の身じゃ。そしてこの地を治めるがいい。」

「お待ちください。クリリアント姫さま。」

「じれったいのぉ。姫さま、なんて呼んではならん。呼ぶなら姫でいいのだ。」

「いえ、わたしにはいつまでも姫さまは姫さまです。」

「気持ちはありがたいがのぉ。」

「私はジプシー、流浪の民として生きて参りました。姫さまのもとにお仕えさせて

いただくようになって数年がたちますが。今急に私は「王女」だとか「姫」だとか

呼ばれてもその対処のしかたも分かりかねます。私は王女として姫として、そ

して国を治める者として、何も知らないからでございます。」

「それではしばらく私と一緒に姫修業というのをやってみてはいかがかな?」

と言いながら姫はサラジーナの手を取った。

「姫修業ですか?」

サラジーナは思いがけない事を言われたので驚きました。

「そうじゃ。私は将来父の跡をついで、この国を治めるやもしれん。父の血を

継ぐ者は私しかいないからな。父は他の男とはちがって、たった一人の女だけ

を愛したのだ。私の母だけを妻とした。だから父の子は私一人だけなのだ。」

「姫さま。そうでしたね、姫さまもお母さまを亡くされて…。」

「んム。それで私はジルベルに姫修業を受けている。後々女王となってこの地

を治める為に色々な勉強をしている。そなたもそれを受けていくうちに姫として

生きるのか、生まれ持った地位を捨てて再び流浪の民として生きるのか、決め

るといい。」

「姫さま。ありがとうございます。一つお願いがございます。」

「何だ? 申してみよ。」

「私がハイアー王国の王女サラジーナ姫だという事をまだ誰にも言わないでい

ただきたいのです。」

「しかし、ここに一緒に来た者はもう知っておるぞ。」

「えぇ、それはいいのです。でも公にしないで戴きたいのです。」

「何故じゃ。」

「決心がついた時に公にしたいと思っているのでございます。私はまだ姫として

生きるのか一人の女として生きるのか決めかねています。」

「そうか、それではこうしたらどうかな。クリリアント姫のいとこのいとこの結婚し

た旦那さんのお姉さんのいとこであったとかいう事にして。」

「間違えそうですわ。」とサラジーナは頬をほころばせながら言いました。

「うむ。そうだな。私でも覚えていられない位の遠縁であるという事にしておくの

だ。そうすれば一緒に勉強してもおかしくない。」

「姫さま。ありがとうございます。」とサラジーナは腰をかがめました。

「それから私の方からも頼みごとがある。」と姫は腕を組みました。

「何でございますか?」

「その、時々はそなたの物語をやっぱり聞かせてくれまいか?」

「はい、お安いご用でございます。姫さま、これからも物語を聞いてくださいま

すか?」

「むろんじゃ。」

ふたりの笑い声はテントの外へ響きました。

 

数日かけてハイアーランドから帰ったサラジーナはその足でナジータじいさんの

所へ行きました。今までにもサラジーナはナジータじいさんにだけは自分の身の

上を明かしていたのでした。

サラジーナはジルベルの話や、開かずの扉を開けた時の話などをし、光の中で

見た母の姿とダンデライオンの花に変わっていったことなど切々と語りました。

ナジータは一言もことばをはさまず、じっと聞いていました。

サラジーナはクリリアント姫とその夜に語った事なども話し終えると、ふぅ---と

ため息をつきました。

「そうか。サラジーナ。いろいろあったんだな。」

と言うとタバコを吸いました。

「おまえがどこの国の王女であろうと、わしにとっておまえは大切な孫娘のような

サラジーナであることに変わりはない。おまえがどんな道を歩いていっても、どん

な道を選んでも、わしはおまえの味方だよ。わしはいつでもおまえを応援するよ」

「ナジータ。ナジータ」

サラジーナは涙をこぼしながらナジータじいさんの胸で何度もうなずきました。

15に続く 

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