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サラジーナ
〜千夜一夜の風〜

〜16 プリプリえび〜

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春の朝早く、ナジーナじいさんが市場へ出かける用意をしながらサラジー

ナに言いました。

「今日あたり、確かプリプリえびが大量に市場に出回るはずじゃよ。」

サラジーナはチャイを飲みながら聞きました。

「プリプリえび? ここ数年不漁だったとか聞いたけど」

「そうだよ。そのプリプリえびは今年は大量に捕れるって話だったよ。漁師の

おやじさんたちが昨日そう言ってるのを聞いたよ。だから今日は市場に

プリプリえびがたくさん出回る。そしてたぶん王宮への貢物としても献上

されるだろうよ。」

「楽しみだわ。どんな味がするのかしら?」とサラジーナはナジータじいさん

の出かける用意を手伝いながら言いました。

「わしは今まで何度も食べてきたが、おまえさんは初めてなんじゃな。ふ

ふふ。食べて驚くぞ。おまえさんはきっと初めての経験で目をまわすに

ちがいない。」

「え?食べたらどうなるの?」とサラジーナはじいさんの帽子をにぎりしめ

ながら訊ねました。

「ま。食べてみるこったな。ははは。どんなだったか、後でわしにも教えてく

れよ。」

ナジータじいさんはサラジーナの手から帽子を受け取ると、サラジーナの

鼻のあたまをちょいっとつついて出かけていきました。

 

サラジーナはナジータじいさんが出かけた後、自分も王宮に向かって出か

けました。いつものようににぎやかな市場のわきを通り、王宮の中に入り、

クリリアント姫の部屋のすぐ横の小部屋で、「サラジーナ姫」のいでたちに

着替えました。クリリアント姫といっしょに姫修業を始めたのでした。

 

その日は地理の勉強の日でした。

教師のジルベルは大きな巻物をもってきて広げました。女官長とサラジー

がそれを助けました。それは羊皮紙に描かれた地図でした。

複雑にいりくんだ地形。山あり谷あり、砂漠あり、川あり。パンプキン王国

はそのまわりを砂漠と山と海で囲まれていて、へたをすると隔離された国

になってしまいそうなところ。どんなけわしい山や踏み越えて歩く山羊を

つかう民族が北の山にいます。また砂漠を越えて淡々と歩むらくだをつ

かう民族が東にたくさん住んでいます。大きな海をゆうゆうと泳ぐくじらを

つかう民がパンプキン王国の南に住んでいます。彼らは世界各地から

運んできたもろもろの品物をこのパンプキン王国の市場で売りさばくので

王国は繁栄しているのでした。

 

ひととおりのむずかしい説明が終わったところで、ジルベルは眼鏡を上げ

て言いました。

「さて、クリリアント姫さま。今日は姫さまへのお貢物が市場から届いてお

リます。」

「何? それを早く言わんか。」とクリリアント姫は身を乗り出して言いまし

た。「何の貢物かな?」

ジルベルは細長い棒を地図にあてて言いました。

「姫さま、それは今朝ここで捕れたものでございます。」

そこには「プリプリ海岸」と書いてありました。

「おぉプリプリえびだな!そうだ、今日は7年に一度めぐってくるプリプリの日

だったな」とクリリアント姫は大喜びでした。

サラジーナは今朝ナジータじいさんと交わした会話を思い出して訊ねまし

た。「プリプリの日? それは何ですか?」

クリリアント姫は瞳を輝かせながら言いました。「プリプリの日っていうのは

プリプリえびを食べる日のことだ。」

「えびを食べるのですか?」

「そうでございます、サラジーナさん。あ、いや、サラジーナさま。」と言って

ジルベルは小さく咳をして説明を始めました。

「7年に一度の春のこの日。プリプリえびの力が強まるのです。プリプリえび

は天からの祝福でプリプリプリとなるのです。」

「は?プリプリえびはプリプリプリとなるのですか?」とサラジーナは目を丸く

して訊ねました。

「そうです。プリプリえびはプリプリプリとなります。プリプリの日以外に食べる

と、他のえびとまったく同じですが。」とジルベルは言いました。

クリリアント姫はふたりの間に入って言いました。

「サラジーナ、7年前そなたはプリプリえびを食べなかったのか?」

「姫さま。私は7年前はこの国にまだ来ていません」サラジーナは答えまし

た。姫はサラジーナの顔を覗き込んで「ぜひに食べるように!」と言いま

した。

 

「そうですよ、サラジーナさん。プリプリえびは素晴らしいです」とその時、

女官長が言って、手を叩きました。それを合図に何人かの女官が入って

きました。いい匂いがしました。

「姫さま。サラジーナさん。少し早いですがお昼にいたしましょう。さぁ、

ジルベル先生もこちらでどうぞ。ゆでたてのプリプリえびですよ!」

皆は女官長の言うことを半分も聞いていませんでした。湯気のあがった

プリプリえびに喰らいついて、むしゃむしゃと食べ始めました。女官長も

言い終えると皆といっしょにむしゃむしゃ食べました。日頃のつつましや

かさはどこかへ行き、別人のように目を輝かせていました。

 

「ぷぅ〜」

一番はじめにその音が出たのはクリリアント姫でした。

「わっはっは!」姫も皆も一緒になって笑い出しました。

「ぷっ」 「わっ」「あっはっは」

サラジーナもおならが出ました。

「姫さま。皆さま。お持ちしましたよ。」

新しく ゆであがったプリプリえびを 山のように盛り上げた鍋を持った

料理長が部屋に入ってきました。料理長はぷぅ〜ぷっぷっぷと音に

あわせて宙を飛びながらやってきました。それでも鍋に入ったえびを

ひとつも落とさないのは見事でした。

そのようすがおかしいと言って、部屋にいる皆がえびを食べながら笑

いました。食べてはぷりぷりぷぅ〜とおならを出し、出しては笑いました。

 

その日、王国のいたる所では ぷぅ〜ぷっ と にぎやかな音と笑い

声がひびきわたりました。お年よりも小さな子供も、お金持ちの人か

ら乞食まで、すべての人がプリプリえびを食べて ぷりぷりぷぅ と

おならを出しました。そして腹の底から わっはっはと笑いころげて

すごしました。

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