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サラジーナ
〜千夜一夜の風〜

〜18 大団円〜

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翌朝サラジーナはローズソンの腕の中で目がさめました。

目の前のまだ眠っているローズソンの顔を見て、名前を呼びました。

「ローズソン」

「ん」

ローズソンは起きませんでした。しかしサラジーナは名前を呼んだだけで嬉しく

なってきました。

着替えながら自分がもうすでにパンプキン王国に初めて来た時の12歳の少女

ではないことを改めて思いました。ジプシーの仲間から別れた時やひとりでこの

国にきた時のことを思い出していました。

姫のおつきとなり、歌い踊り、物語を語る仕事をして何年もたち、城から外へ出る

事が許されてからも何年たったのか、と考えていました。

 

前夜のジプシーの姿をして、ローズソンの家から出たサラジーナはバラ園の中を通り、王宮

の廊下のみえるところまで歩いた時、女官長と出会いました。

「おはようございます。」

挨拶をしたのですが女官長はぼぉっとしてサラジーナに気がつきませんでした。

すると右の方から「女官長さん」と呼ぶ声がしました。サラジーナはその声が誰かすぐにわ

かりました。それでサラジーナはバラ園の中に身を隠しました。

「女官長さんっ」その声はもっとはっきり聞こえてきました。

バラ園の中に隠れたサラジーナには、女官長はその声の方に向いてすぐ背を向けるのが

見えました。あらわれたのはクリリアント姫の教育係のジルベルでした。豊かなあごひげを

ゆらしながらジルベルが女官長のところまで走ってきました。

「女官長さん、わたしはっ。はっはっはぁ。はぁっ。」と大変に苦しそうに息をしました。

女官長はジルベルの背中をさすりました。

「だいじょうぶですか。ジルベルさん」

ジルベルは女官長の手をとって言いました。

「女官長さん、いいえ、ジョセフィーヌ。朝になったら姿が見えないからどこへ行ったのかと

探しましたよ。」

「ジルベルさん…」

「わたしはあなたの為なら何でもしますっ。わたしを拒むなら、それは、わたしを殺すのと

同じです。」

「しかし、わたしにはクリリアント姫をお育てするお役目があるので」と言って女官長はジ

ルベルの手を払おうとしました。しかしジルベルは手を離しませんでした。

「いいえ、姫はもう立派なおとなです。」

「ジルベルさん。」

「もうそろそろあなたはあなたご自身の人生を生き始める時がきたのではありませんか?」

女官長はジルベルに手を引かれるままジルベルのもと来た道をふたりで戻っていきました。

 

サラジーナはぽかんと口をあけて、女官長とジルベルのようすを見ていました。

ふたりの姿が見えなくなった後ローズソンのところへ戻りました。

ローズソンを起こしていっしょにクリリアント姫のところへ行くように頼みました。

「いいですよ。でも何のために?」とローズソンは聞きました。

サラジーナは彼をじっとみつめて「わたしたちがいっしょに暮らす、と言う為に」と言いました。

サラジーナは自分の生きる道を決めました。ハイアー王国の姫ではなくひとりの女性として、目

の前の人と共に生きる事を。

ローズソンはにこっとして言いました。

「ぼくはこの王宮内のバラ園だけでなく、この国全体にもっとバラを育ててバラの国にするように

パンプキン王からおおせがありました。だからぼくは今はここに住んでいますが、もうすぐ王宮の

外にも家を持つことになります。国中のあちこちへ行き、国の外へも行って、外国でどのように

バラが手入れされているのか見に行くことになります。そんなぼくといっしょに生きてくれますか」

サラジーナは思ってもみないことを聞き、驚きました。

「ローズソン…はい! 私の答えは『はい』です。」

ふたりは午前いっぱいを共にすごし、午後から王宮のクリリアント姫のところへ行きました。

 

サラジーナはいつもよりきれいに着替えてローズソンといっしょにクリリアント姫の部屋に行きました。

するとお付きの女官のひとりがサラジーナに言いました。

「サラジーナさま。姫さまは王さまのところにいらっしゃいますので、そちらへおこしいただけるよう

にという事でございました。」

「ありがとう。」サラジーナはお礼の挨拶をしながら、珍しいな、と思いました。けれども昨夜の王と姫の

ようすを思い出し、親子として何か越えられなかったものを越えたのかもしれない、と思いました。

サラジーナがローズソンといっしょに王さまの謁見の間へ行くと、王と姫が玉座に座っていて、その前に

女官長と教育係のジルベルがひざまずいていました。

「そなたたちふたりは、結婚する、と言うのか」と王さまの声が聞こえました。

「はい、わたしたちは以前から目と目で会話しておりましたが、昨夜ふたりの間にあるものを確かめた

のでございます。」とジルベルは言ってかたわらの女官長を見ました。

女官長は毅然として言いました。

「王さま、長い間わたくしはクリリアント姫さまをお育てするというお役目をおおせつかってまいりました。

これからも姫さまのために命をかけてでも、ということは変わりません。このジルベルさんと力をあわせ

て姫さまのためにお仕事をりっぱに果たすつもりでございます。」

クリリアント姫は声をもらしました。「女官長、そんなに…。」

そして王さまの方を見て言いました。

「お父さま。どうか、わたしからもお願いです。あの者たちの結婚をゆるし、祝福してください。ふたりは

特に女官長は長いあいだわたしの母の代わりとしてずっと仕えてくれたのです。わたしは女官長の幸

せを心より祈ります。」

ずっと腕を組んで眉間にしわをよせていた王さまがクリリアント姫の方をむきました。

「姫よ。わしは何も反対はしとらん。このふたりの新居の用意をせねばならない、と考えていたところだ」

「ということは・・・」

「そうだ。今すぐに式をここであげるがよかろう。」

サラジーナは謁見の間に入ったところで一部始終を見て、大変驚きました。

そしてローズソンといっしょに前に出てきて、自分達も結婚するつもりでその許しをもらいにここに来た

のだ、と話しました。

王さまとクリリアント姫は驚きました。

「なんと、サラジーナとローズソンもか。良いではないか。こうなったらそなたたちも一緒にここで式を

あげるがよい。めでたいのぉ」

 

二組の結婚式がそのすぐ後に用意され、華やかに執り行われました。結婚式には愛の実りを象徴す

るブドウがふるまわれました。

そしてその日はパンプキン王国はじまって以来、もっとも沢山の結婚式があった日でした。

その前夜は、自分の幸せについて気づいた人々が、身近な愛を再確認した夜でした。

女官長はジルベルと一緒にかぼちゃの馬車に乗り、新婚旅行に出かけました。

サラジーナとローズソンは姫からもらった魔法のじゅうたんに乗って新婚旅行に出かけました。

サラジーナはパンプキン王国だけでなく砂漠や山を越えて、色々な国で物語を聞き集め、時には

ローズソンといっしょにバラや草木の探求に出かけました。

そうしていくつもの昼と夜がすぎていき、サラジーナが姫に語った物語のいくつかは後の世まで伝えら

れることとなりました。

おわり

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