えみちゃんとライオン 

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   ある夜のことです。 空にお星さまとお月様が ぴかぴか光る頃、 丸い丸い星空のてっぺんで 

 からだじゅう、きらきら星で光ったライオンがあくびをして、 言いました。

 「ふぁ〜、ぼくはいつも ここから地球をながめてる。 見てるだけなんてつまんない。」

 そこへ彗星のおじさんがやってきました。 おじさんは 彗星に乗って 広い広い宇宙を 旅しつづけている、

 さすらいのおじさんです。 ライオンのつぶやきを聞いて 「ふむ、それじゃ、行ってみるかい? 」

 ライオンは大喜びです。 「ガアウォー☆ やったぁ!」

 

   おじさんは 少しまゆをひそめて 「だいじょうぶかなぁ」と 心配そうです。

 「ライオンさん、地上に降りるんだったら からだについてる きらきら星は ここに置いていかなくてはならないんだよ。」

 「そうなのか。 じゃ、ぼくが出かけてる間は きらきら星さんに しし座の おるすばんを しててもらうよ。」

 ライオンがきらきら星さんを ぬぎました。  お星さんは しし座の形をしていました。 

 ライオンは夜空の星座かけに ライオン座のきらきらお星さんをかけました。 「ぼくのおるすばん、よろしく おねがいいたします」

   ライオンは歩きながら 彗星のおじさんに言いました。「ぼくはひるまの世界に行ってみたいんだ。」

 おじさんは あわてました。「あ、だめだよ。君は地球に降りてもよいが、それは夜の世界の、地球だけだよ」

 ライオンは悲しくなりました。「どうしてなんだろ?」

 「それはね、ひるまの世界ではライオンというのは自由に歩けないことが多いんだ。へたをすると 怪我しちゃうんだ。」

 ライオンは驚いて「危ないんだね。」

 「うん。そうなんだ。ライオンの君には ひるまはとっても危ない。だからひるまの世界に行っちゃだめだよ。朝が来るまでに夜空に帰るんだ」

 ライオンは 「はい、わかりました。」と答えました。

 
   歩いているうちに 地球が近づいてきました。 夜の野原です。  「わあ〜〜い!!」ライオンは大はしゃぎで、駆けます。

 今まで 夜空の雲や風の中を走った事はあるけれど、 草の生えてる地面を踏みしめて、走るのは初めてです。

 夢中になって走っているうちに 遠い所まできてしまいました。 

 彗星のおじさんを忘れて、一人で走ってしまいました。 ここはどこでしょう?

   ふと見ると 空のはしっこが明るくなってきました。ライオンがはじめて見る朝です。明るいクリーム色をした空のはしっこをながめ、

 そのあまりの美しさに、「朝が来るまでに 夜空に帰る」という約束を忘れてしまいました。

 本当のところ、それが「朝」なんだ、という事を知らなかったのです。

 「朝」が来てその次に「危ないひるま」が来るんだ、という事しか知らなかったのです。

 それはそうです。 ライオンはいつも 夜の星空で きらきらと輝いていたからです。

 ライオンは明るい空に向かって歩き出しました。 「うわぁ、まぶしい」はじめて太陽を見ました。

   歩いていくと景色が変わり、建物が見えます。人々が住んでいる町です。 ライオンが歩いていくと 大きな声が聞こえます。

 「キャーーー!」「危ない」「大変だ」 人々は口々に叫びながら 逃げていきます。

 ライオンは これは「危ないひるま」に入ってしまったんだ、と 思い、こわくなってきました。

 どこか、安全なところへ かくれようと思いました。でもどこへ逃げたらいいのかわかりません。

 どんどん怖くなって 走り出しました。 ますます人々の悲鳴が大きくなります。「きゃぁ〜走ってきた!」

 ライオンは「え?走ってきた? ぼくの後ろから 何か こわいものが走ってくるんだ・・・」とふるえあがりました。

   ばあーん★  銃声がひびき、人々が手に銃を持ってライオンに向かってくるのが 見えました。

 「ライオンめ 来るなら来い!」 多くの人が手に手に 銃や棒などを持って 向かってきます。

 ライオンが怖さのあまり、 「怖いよぉ〜〜★」と叫んだ時 ライオンは 生まれて初めて がおおおーー!と 吼えました。

 そして 走って逃げました。 飛ぶように 走り逃げました。 

 ライオンは走り走り、見たこともない町を走り、山を走り、空を飛ぶようないきおいで、走りつづけました。

 追いかけてくる人も もういないのに、 ライオンはこわさのあまり、ずっと走りつづけました。

 ふと 疲れをおぼえた頃、ある丘の上にある 小さな家のそばに通りかかりました。

 ライオンはその家の花咲く庭で ひと休みをする事にしました。 ずっと走りっぱなしだったから 疲れきっていました。

   「どうしたの?」と可愛い声がしました。そこに、小さな女の子がいました。 

 ライオンは驚きました。 今まで おそいかかってくるたくさんの人々から逃げるために 一生懸命に走っていたのです。

 はじめて やさしく話しかけてくれる人に会ったのです。 ライオンは 「えーっとぼくは」と言うだけが精一杯でした。

 女の子は名前を教えてくれました。 「えみちゃんって 呼んでね」

 えみちゃんの家は小高い丘の上にありましたから そこから 町や山がよく見えます。

 甘い花の香りと、 かわいいえみちゃんが いて、 ライオンは疲れていたし、少し眠りました。

 えみちゃんといっしょに ぐーぐーと 眠りました。

 

   ふと 目覚めた頃、目の前が赤い色でした。 夕焼けの空です。だんだん夜が近づいてきました。

 太陽が半分まで 沈んだ時、彗星のおじさんが空からやってきました。 「あぁ、ここにいたのかい。 探したんだぞ」

 ライオンは「ひるまは 本当にとっても 怖かったよ。 でも えみちゃんとも会えたし。昼寝もしたんだ」と言いました。

 おじさんはライオンの話を聞いて、「うん。大変だったね。」   ライオンが話をし終わると、空は夜になっていました。

 お留守番のしし座が かがやいて見えます。ライオンはえみちゃんに、「あそこがぼくのうちなんだ。」と言いました。

 「じゃ、これからも 夜会えるのね。 でも夜はねむってるから、、会えないかな〜」とえみちゃんが残念がると。

 おじさんは にこにこして言いました。「ねむったまま会いにおいで。」

 えみちゃんはわかりました。 眠っているときの方が どんなに高い空だって どんなに遠い所だって すぐに行けるんだ、という事が。

 ライオンは 彗星のおじさんといっしょに 目には見えない 空の道に足をかけて、のぼっていきました。

 「えみちゃん、またね〜」 「うん。またね」

 
   ライオンは しし座のところに帰り、いつものように、きらきら星さんをまといました。

 夜空に ひときわかがやく 彗星のおじさんが うちゅうのかなたに去っていくのを見送り、ライオンはあくびをして言いました。

 「おうちが一番。 だけど ひるまもおもしろかった」

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