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海洋冒険ファンタジー

  フ リ ル 〜 歌う魚

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《第5章》 氷と雪の女王

(1) 雪の結晶

(2) 氷の女王

(3) 冷海オリンピック

(4) 海神ポセイドンの愛

7ページ目制作 2003/7/22〜8/3  

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《第5章》 氷の女王

(1) 雪の結晶

フリルのからだが飛ぶと同時に六角形の白いきらきらとしたものがまわりに見えました。

きらきらきらきら。雪の結晶はそれぞれがくるくるとまわりながら飛んでいます。

フリルの体は目に見えないチューブの中を飛んでいるように、ある方向をめざしていました。

雪の結晶の美しさに目が奪われていましたが、そのうちにどこまで飛んでいくのかしら?と

不安になりました。

「ヤンヤは寒い冷たい海流にいるのかしら?」

しばらく行くとスピードがゆっくりになり、やがてからだが止まりました。

目の見えないチューブからはずれて体を動かせるようです。

しばらくいくと青い海がひろびろとひらけている所へ出てきました。

その中央には大きな雪の結晶がありました。見ていると次々に形を変えていきます。けれど

もどう変化しても正六角形の対称になっているのは崩さないで、きりっとした美しさです。

フリルは少し近寄ってみました。

「ようこそ。」と声が響きました。

「あ、こんにちは。」とフリルはあわてました。声がするとは思わなかったからです。

「わたしはフリルです。」と挨拶しました。

「ようこそ、フリル。」と声が言いました。「わたしは 声。時をこえる声だ。」

「あ、声さん。こんにちは。」

「そなたは氷の宮殿でじぃらに色々話を聞いただろう。そなたとじぃらの話しているのを見て

そなたが夢の石から旅立っていく途中で、会ってもらおうと思い、目に見えない力でこちら迄

来てもらったのだ。」

フリルは 頭のなかで しばらく考えて訊ねました。「えぇっと、声さん。それでは私に何か

御用がおありでしょうか?」

「ふむ。そなたの前に声だけを見せているのは不便だな。よし姿を見せる。」

(2) 氷の女王

雪の結晶のまん中あたりで白く光り、その光はフリルの目の前まで来て再び光りました。

ぴかーーーーーー!

「これが 氷の女王 の姿と声であるぞ。」

フリルは女王の姿をみて、歌姫ファイアー・オパールに少し顔が似ていると思いました。

うろこの色が白にかぎりなく近い青と緑などの色で、髪は雪の結晶で飾られていました。

「歌姫ファイアー・オパールに似ている…」とフリルが言うと 氷の女王は少し微笑みました。

「それはそうでしょう。彼女はわたしの娘。」

「海神と太陽の娘だと聞きましたが…?」

「そなたは じぃらの話を忘れたかい? 太陽の別の姿が、氷の女王。氷の女王は太陽で

もある。太陽だけの部分で海神を愛することは出来ない。そんな事をすれば海は太陽の熱

で蒸発してしまうだろう。氷の女王の部分だけで海神を愛することも出来ない。海のすべて

が凍りついてしまい、海に行きとしすべての生命が凍り死んでしまう。海神ポセイドンは賢

いよ。太陽を愛するという事は、氷の女王をも愛さなければならない、という事を承知のう

えだ。ただやみくもに恋におちた訳ではない。私達は愛したのだ。愛するもののすべてを

受け入れて愛しあったのだ。」

フリルはただ圧倒されて、氷の女王のことばを聞いていました。

「フリル、そなたは海に生まれ育ち、どんな海のはてまで行こうと、海は海だと感じておるだ

ろう?」

「はい。七つの海を渡ろうとも、海は海だと感じています。激しくさかまく海であろうと、穏や

かな海であろうと、悠々とした流れのある海であろうと、海は海だと…。」

氷の女王は ふふ、と微笑んで言いました。「このような氷の厚い海でも、海は海だとそな

たは言えるか?」氷の女王が言い終わると姿が消えました。

目のまえを巨大な厚い氷の層が広がり、寒いというよりは凍える海が見えました。太陽は、

はるか遠く、海は暗い。フリルは凍える寒さを感じました。しかし、その時あんこうのおばさん

から言われた言葉を思い出しました。

「そうだ、私は氷の海も熱い海も泳いでいけるんだ。冷たい海流にもあたたかな海流にも

適応していける体を持っているんだ、と言われたんだったっけ。」

フリルは心臓の鼓動が激しく胸をうつのを感じながら、静かに呼吸しました。何度かゆっく

り呼吸するごとに落ち着いてきました。身を切るように冷たい潮の流れに身をまかせ力をぬ

くと、いつもよりも体が軽いことに気づきました。うろこのひとつひとつの存在を感じることが

できて、ひらひらと動くひれやしっぽの挙動しぐさの端々までも自分で感じることが出来まし

た。

「ふぅん、私の体って こうなってるのか…」とフリルはつぶやきました。自分で自分の体を感

じてみる事なんて ひょっとしたら初めてなのかもしれません。

フリルは自分の体の感覚という海にしばらく浸り泳いでいました。

*

(3) 冷海オリンピック

*

しばらくすると、目の前の海のようすが変わっていました。厚い氷の下に広がる海が見えま

した。そこには沢山の小さな魚が泳いでいました。冷たい海を泳ぎきるに充分なほどのスタ

ミナや体熱を備え持ったたくましい魚たちがいました。幾つもの種類の魚がゆうゆうと速さや

激しい身のこなしをきそいあっていました。

*

感心してながめているとフリルはその場に来ていました。素早く泳ぐ魚達の群れの向こうに

は違うものが見えて、行ってみました。

するとそこは、ゆったりと静かに踊るように泳ぐ魚たちがいました。沢山の白い魚の群れが

いっせいに宙をまわり寸秒の違いもなしにぴったりあわせて海いっぱいに広がって泳いで

いました。その魚たちが見えなくなると、今度は、違う種類の魚の群れがあらわれました。

銀色のさかなの群れでした。ひとりひとりの魚のうろこが、おおぜいになるとそれはもう、

ぴかぴかちかちか光って綺麗でした。

フリルは あまりの美しさに ほぉーーと感心していました。

*

そのむこうには黒光りする大きな魚がいきおいよく群れなして泳いでいました。

それはマグロでした。

こんな歌声が聞こえてきました。

**ガラッパチ・マグロの歌**

*

ヘイ! ヘイ! カジキだ! マグロだ!

ちょいとそこの お嬢さん。

あっしは 先を急ぐんで すまないね。

なごり惜しいが ここでサヨナラよ。

二晩とおなじ寝床を 共にできぬ体なのさ。

*

ヘイ! ヘイ! カジキだ! マグロだ!

止めちゃならぬよ お嬢さん。

あっしは 止めても止まらぬ 体なの。

なごり惜しいが これでサヨナラよ。

一夜限りの恋に燃え 朝はいつでも旅立ちなのさ。

*

ヘイ! ヘイ! カジキだ! マグロだ!

泣いてくれるな お嬢さん。

あっしは 流浪(さすらい)のマグロなのさ。

なごり惜しいが もう サヨナラよ。

あっしが立ち止まるのは それは 命の終わる時よ。

***

ガラッパチ・マグロの歌と踊りが終わると、目の前には大きな貝が現われました。

「ファイアー・オパールかしら?」とフリルは思いました。

白い貝が開き、そこからあらわれたのは フリルでした。

フリルは驚きました。自分がもうひとりいて、貝からあらわれ歌い始めたのでした。

それは 遠い遠い宇宙からのメッセージがこめられた、深遠なる魂の歌声でした。

***

**フリルの歌〜遠い果て〜**

この宙そら この海 どこまでも遠く深く青く澄み渡る果てもなく

この愛 この声 どこまでも浅く深く高く低く響く感じる果てもなく

この心 この光 どこまでも強く優しく白く輝く照らす果てもなく

この愛 この歌声 どこまでも遠く深く時を越えて海を越えて果てもなく

すべては流れにのり動かされ 自ら動いて泳いでゆくものなり

*

どんな悲しみも どんな涙も すべては消えうせる波の後ろへ

どんな愛さえも どんな心も 目の前から消える時が来る

永遠に続くかのように思える どんな辛い事もいつかは終わる

永遠に続くようにと願う どんな強い愛も永遠ではない

すべて果て無き海の彼方へ 果て無き時の彼方へ

めぐりめぐりて 再びくる

七つの海の回廊を えんえんと潮が渡り 再び目の前に来るように

めぐりめぐりて 再び出会う

七つの大地の回廊を えんえんと風が吹き 再び目の前に来るように

めぐりめぐりて 再びくる

***

*

フリルの目の前には 白いきらびやかなフリルが歌っているのが見えました。歌い終わった

フリルは海神ポセイドンの前にいるのが見えました。(何を話してるのかしら?)と思ったとた

ん、フリルの目の前に海神ポセイドンの姿がありました。

*

(4) 海神ポセイドンの愛

*

海神 ポセイドンの姿を見るのは 初めてでした。水晶と海草でできた玉座のてすりの左右

には冷たそうな氷と燃える炎が置かれていました。

海神は言いました。

「フリル。氷の女王からの伝言だ。そなたは氷の女王が指し示したテストをクリアーした。」

フリルは驚きました。

「え。テストをクリアーした?」

「そうだ。そなたは海はどんな海でも《海は海だ》と女王に言った。そして女王は〈それがそ

なたの本心か?〉テストしてみたのだ。氷海にひとりで置かれてもそなたはかきみだされる

ことなく、静かに呼吸して凍れる冷たさを受け入れた。そればかりではない。冷海オリンピ

ック会場にまでたどりついて、この冷海の寒流に泳ぎ生きる魚たちの生き生きとした姿を

見る事ができたのだ。」

フリルはさっきまでに見えた事を思い出してうなずいていました。

「はい。私はただ目の前にあらわれてくるものを見ていただけなのですが、そういったものを

見ていました。」

「フリル。それだけ、の事とは言うが、実はそれはなかなかできない事なのだよ。」

フリルは 海神の言った意味がわかりませんでした。

「え? どういう事でしょうか? 見えたものを見るというのが出来ない事だと?」

「そうだ。」と海神は言いました。

「すべての魚は自分の目からまわりの状況を見る。自分の目から見えたものしか見えない。

目が曇っていると目の前にあるものもある、と認識できないし、そればかりか 見なければ

ならないものまでも見逃してしまう。魚のほとんどが自分の暮らしている海流の範囲で見える

ものはこんなものだろうとどこかで考えてしまい、目の前にほんのちょっとの変化や知らせが

あっても見逃してしまうのだ。目の前にあっても毎日の暮らしからはずれているものは存在

しないかのように思ってしまい、一日一日が新しい日なんだ、という事を感じないで生きてし

まうのだ。今日は昨日の続きではあるが、まったく同じ一日ではない。しかし同じ一日である

かのように錯覚してしまい、同じ一日であるかのように生きてしまうのだ。」

フリルは海神が言わんとしている事が何となくわかるように思えました。

「海神さま。それは魚がどのような生き様をしているか、というのは体と一致しているのでは

ないでしょうか? 遠い海から遠い海へと毎日早く長い距離を泳ぐ魚や 穴にもぐって暮らし

ている魚や 浅瀬の砂や石にまじって生きている魚達。この海には実にさまざまな環境に

適応して様々な体の魚が生きている。だからそれはそれぞれ、魚ひとりひとりの個性なので

はないでしょうか?」

海神はうなずきながら聞いていました。

「ふむふむ。さすがにフリルだ。歌姫ファイアー・オパールやじぃらから話は聞いておるぞ。

わしが言いたかったのは、そういう個性あふれるこの海広しといえども、フリル、そなたの

ような魚は、ふたりといまいぞ、と言う事なのじゃ。」

フリルは 顔を赤らめて 言いました。「あ、ありがとうございます。」

「さて、そなたを氷の女王と出会った所へ返そうか。」と海神は言いました。

「はい。ありがとうございます。あ、ひとつお伺いしていいでしょうか。」

「なんだ、言ってみなさい。」

「さっき、私が貝からあらわれて歌っているのが見えたのですが、あれは一体何だったので

しょうか?」

「フリル、そなたは自分で それは何だと思うかね?」

「心の奥で望んでいる、いつかそうなったらいいな、と思う姿のひとつではないか、と思うの

ですが…。でも私はあんなきらびやかな姿でなくても、もっと小さなささやかな場で歌っていく

語りかけるように歌っていく方が向いているのではないか、と……。」

「フリル。限定しなくてもいいのではないか?」

「限定?」

「そうだ。小さなささやかな、だけではない。沢山の魚を相手に歌う事も、語りかけるように

歌う事も、どちらもやっていいのではないか? そなたはむしろいつでも限界を超えていく

海流に乗っていくところがあるから、今から限定してしまわずに流れに乗って生きなさい。

そうすればおのずと そのつどそのつど 必要なことがやってくるだろう。」

フリルはしみじみと海神ポセイドンの豊かな愛に満ちた言葉を聞いていました。ありがたい、

と思う気持ちがあふれ出て 涙が出てきました。涙でいっぱいの目で海神ポセイドンを見て

いるうちにその姿が変わり、氷の女王の姿となりました。

氷の女王は「フリル。思いっきり行きなさい。胸をはって堂々として行っていいんですよ。」

と言うと姿を消しました。

*

フリルは早い流れに乗って泳いでいました。その流れは上へめざしていたかと思うと大きく

カーブしたりうねっていましたが、どこか目指すところははっきりしている、といった感じの

流れでした。

その流れの先は きっと ヤンヤのいる所。

フリルは確信していました。フリルのうろこのポケットからファイアー・オパールの虹色のうろ

こが光りながらこぼれました。そしてフリルの目の前、頭の先へ飛んで行き、フリルの行く先

を明るく照らしました。

音のないような音をたてて、虹色のうろこが炸裂した時、フリルの全身を虹色の光が包み

ました。

フリルの体は海の宙を飛び、海面をつきやぶり、空の宙へと飛んでいきました。

「虹を渡るのかしら?」とフリルは思いました。しかしそこには虹はなく、ただ青い空でした。

そしてフリルの体の通った後に虹ができたのでした。それだけではありませんでした。その

空には何重にも虹がかかっていくのが見えました。フリルは海と空にジャンプをくりかえして

虹を更に作り、ヤンヤのいる東洋をめざして泳いで行きました。

8ページ目に続く

 

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