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サラジーナ
〜千夜一夜の風〜

〜5 「バラの国の物語」〜

 

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ある日の夕方、サラジーナはクリリアント姫のお召しで王宮の庭に咲いた

ピンクのバラを一輪つんで持ってきました。

姫はバラの香りを楽しみながら言いました。

「このバラはここより西の国から伝えられたもの。山ひとつ越えた向こうに

はバラの国というのがあると聞いた事がある。サラジーナ、お前はその

バラの国に行ったことがあるか?」

「はい、ございます。」

「ほぉそれはどのような?」

「白赤ピンク黄色と色々な色のバラが咲きます。」

「黄色とな? たしか黄色いバラというのはチャイナの国伝来のバラだと

聞いたことがあるな。うちのバラ園でも最近植えたと聞いたぞ。そうだ、

女官長、バラの係りを呼べ。」

女官長は「はっ」と答えて下がりました。しばらくして女官長は戻ってきて

言いました。「姫さま。バラの係りの男は体が悪くて姫さまの前まで来る事

ができません。その代わりにその男の息子をつれて参りましたが、いかが

致しましょう?」

「かまわん。その息子をここへ。」

バラ係りの息子がやってきて 姫とサラジーナのいる前で腰をかがめ挨拶

しました。「ごきげんよう。姫さまにおかれましてはうるわしゅう。」

バラ係りの息子は、たいへんな美男でした。かたくななバラのつぼみも、

その男がふれてことばをかけると、つぼみはひとりでに花を咲かせるであ

ろうと思わせるほどの雰囲気をもっていました。サラジーナは少しだけ胸を

ときめかせました。

「して、そなたの名前は?」と姫が尋ねました。

「ローズソンと言います。」

「そなたはバラ係りをしている父親の手伝いをしているそうだな。どのような

事に気をつけてバラを育てているのか?」

「よく言葉をかけて時にはうたいかけております。」

「ほぉ歌か。バラに歌いかける歌というのがあるのか?歌ってみよ」

「はい」

 

『バラよ バラ』

バラよバラ きみは うつくしい

バラよバラ こんなにも甘い香り

バララララララ〜〜 バララララ〜

ラララララ〜 ラララララララ〜

 

ローズソンは甘い歌声で短いフレーズを何度も繰り返し歌いました。

クリリアント姫は拍手をしてローズソンをほめたたえました。

「ローズソン、ほめてつかわす。見事な歌声じゃ。そなたはバラのために歌っ

てくれたが、ほかのもののために歌うことはあるのか?」

「いいえありません。ぼくはバラを育てることは知っていますがそれ以外の事

は何も知りませんし、関心もありません。」

「何もか?」

「はいそうです。ぼくは毎日おとうさんといっしょにバラをそだてることが喜び

です。」

「そうか。そなたは黄色のバラも育てているそうだな。それはチャイナ伝来

のバラではなかったか?」

「はい、そうです。」

「チャイナ伝来のバラはほかのバラと比べてどうだ? 扱いがちがうとか、

ちがう歌を歌わなければならない、というような事はあるのか?」

ローズソンは腕を組んで考えこみながら答えました。

「黄色いバラは花びらを開くとき他のバラとはすこし違う動きを見せます。」

「それはどのような?」

「開きかけてとまり、開かないのかと思うと開き、開くだろうと思っていると、

開かない。どうも思わせぶりが好きなようです。」

「うむ・・・面白い。」とクリリアント姫はローズソンの話にたいへん興味をもっ

たようです。「今日は面白い話を聞かせてくれて ありがとう。ローズソン、こ

れからも私のためにきれいなバラを咲かせてくれ。」

「はっ」ローズソンは頭を下げました。

 

クリリアント姫はかたわらにいたサラジーナの方を向いて言いました。

「サラジーナ、そなたはバラの国というのに行った事があると言ったな。」

「はい、姫さま。」

「それについて話してくれまいか?」

「はい。それはここよりいくつもの山を越えて西に行ったところにある国の

ことでございます。その国にはこんな昔ばなしがありました。」

 

「バラの国の物語」

それはバラの国と呼ばれていました。国じゅうあふれる位にバラが咲いていま

した。その国ではさむい時は空から雪とよばれる白いふわふわしたものが降

るのですが、そういうさむい時でも雪バラと呼ばれるバラが咲きました。

バラの園のまんなかには白いお城がありました。白馬に乗った王子様の物語

にでてきそうなほど美しいお城でした。そのお城には王さまが住んでいました。

王さまにはお后さまがいらっしゃったのですが、亡くなってしまわれたので、新

しいお后さまをお迎えになりました。

お后さまは雪バラがきれいに咲いた日に城にこられたので「雪バラの君」と

王さまは呼びました。お后さまは王さまを「雪バラの王さま」と呼びました。

ふたりは仲良く暮らし、お姫さまが生まれました。ふたりは姫を「雪バラの姫」

と名づけました。

三人の仲のよさをねたんだ魔女がいました。それはトゲトカゲ山に住んでいま

した。名前を「魔女トゲトカゲ」と言いました。三人へのお祝いだと言って、トゲ

がいっぱい入ったトゲトゲケーキをおくりましたが、三人はよく「これはかみご

たえがあるケーキだ」とよくよく噛んで食べましたので、トゲがのどにささる事

なくおいしく召し上がりました。

そして雪バラの君がそのお礼に、と、甘い しあわせのバラしずくをふんだん

につかったバラケーキを作って、魔女トゲトカゲにおくりました。魔女トゲトカゲ

には虫歯が沢山あったので、歯が痛くなって大変苦しみました。

魔女トゲトカゲは、次に苦いまずい味のクッキーを作って三人におくりました。

すると三人は 「これはものすごく体にいい薬草がふんだんにつかってあって、

ありがたい」と言って、よろこんで食べました。魔女トゲトカゲは体にいい薬草

をそうと知らずにつかったのでした。

魔女トゲトカゲは何をやっても三人には痛くもかゆくもないのに、自分だけが

苦しい目にあうので腹がたって仕方がありませんでした。その怒りのあまり

にかみなりを呼ぶ呪文をとなえてバラの国じゅうにはげしい雷雨が降るよう

にしました。

すると呪文をまちがえて、トゲトカゲ山にはげしい雨が降り、三日三晩かみなり

がなりひびきました。しかし、トゲトカゲ山に近いバラの国にはほどよい雨が降り

ました。バラの国の人々や王さまは「最近雨があまり降らなかったから、良かっ

た。良かった。これも魔女トゲトカゲさまのおかげだ。」と言って大変喜びました。

王さまは魔女トゲトカゲのもとへバラの花で飾った椅子を送りました。

その椅子が届いた時、魔女トゲトカゲは二日酔いでした。ふらふらになりながら

その椅子に座りました。すると魔女トゲトカゲのトゲが取れていきました。

実は魔女トゲトカゲは、前の夜、魔法使いカメレオンからもらったカメレオ酒を

しこたま飲んだのでした。そのため、カメレオンのようにまわりの色と同じ色

に変わってしまうのでした。それだけでなく強力な魔法がかかっていましたので、

色だけではなくそのもののようになってしまうのでした。

今まではトゲトカゲ山にいて、トゲトカゲ山のように体じゅうが黒くトゲだらけでし

たが、バラの椅子に座ったとたん、体じゅうからバラの花が咲いて美しいバラの

女神になってしまいました。

美しいバラの女神になってしまった、もと・魔女トゲトカゲは涙を流しました。

「こんなに美しくきれいになってしまった。」そう言ってペットの黒トカゲにふれよう

としたらペットも白い可愛い犬になっていました。

「私はこんなにきれいになってしまって、これからどう生きたらいいのでしょう?」

涙を流すごとに部屋は美しくなっていき、黒っぽいぎざぎざした岩やトゲがいっ

ぱいだったトゲトカゲ山は美しい緑の山に変わってしまいました。

そこへ天からの風が吹き、空の雲が割れ、光がさしました。光の中から天界の

神さまがおりてきました。

「美しくなったのにどうしてそのように泣いているのだ?」とたずねました。

女神は答えました。「私は美しくなってはいけないのです。」

「だからどうして美しくなってはいけないのかね?」と神はたずねました。

「私はこんなに美しくなってはいけない。もっとみにくい姿で生きていかなければ

いけません。なぜって、私は雪バラの王の先のお后さまを殺してしまったのです

から…。」と言うと わぁっと泣きました。

神は女神にたずねました。「どうして先のお后さまを殺したのだ?」

「しあわせに生きている人たちがうらやましかったからです。だから先のお后さま

がねむっている時にその夢に入り込んで、ちょっとおどしてやったのです。そした

らその次の日からお后さまはねむることができなくなり、そのうちに食事もできな

くなり、やせて亡くなってしまったのです。」

神は泣いている女神の肩に手をかけて言いました。「つまりあなたが直接手を

くだして殺したわけではないんだね。」

「えぇ、そうです。でも結局は同じ事です。」と女神は答えました。「私はみにくい

姿で生きていかなければならないのです。美しくなってはいけないのです。」

その時天空の神の肩にとまっていた白い鳩が突然言いました。

「もういいのです、魔女よ。私が先のお后です。私はいつも『こんなに幸せでいて

いいのかしら?バチがあたるのではないかしら?』と言っていたからそんな事に

なったのです。王さまに愛されながらもその幸せの中にいるのが怖かった。だか

らその思いどおりになったのです。魔女よ、あなたのせいではありません。」

女神は驚きました。「え、でも…。」

神は言いました。「もしもあなたが先のお后さまの命をうばったのだと、どうしても

考えてしまうのならそれでもいいでしょう。それならばあなたは魔女トゲトカゲとし

ての人生を投げ捨て、これから美しいバラの女神として生きることでつぐなっては

どうでしょうか?自分で自分を罰するよりもいい方法だと私は思います。」

そう言って神は天空高く帰っていきました。

その日から魔女トゲトカゲはバラの女神として、バラの国やそのまわりの国々に

愛と美をつかさどる役わりとなりました。バラの国に咲いたバラはそこから遠い国

へ愛と美を伝え、いまも美しく咲いています。

 

サラジーナの、バラの国の物語は終わりました。その夜仕事を終え、帰っていく時、

ローズソンはサラジーナにこっそり言いました。

「サラジーナさん、さきほどの物語は素晴らしかったです。これは秘密ですけどぼく

の家系はバラの国の王家のまつえいらしいのです。誰に言っても信じてもらえない

でしょうから誰にも言わなかったのですけれど。」

サラジーナはにっこり笑って言いました。「そうだったのですか。それでは私も秘密

をうちあけましょう。私は本当はどこかの国の姫なのです。」

そういうとふたりは ぷっとふきだして笑いました。

サラジーナは(今のくらしも悪くない、姫でなくてもずっとこのままでいい、)とふと

思いました。

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