トラ の子・たびぃ の 物語
Copyright 2001 Yuri’s IIHI-TABIDATI All rights reserved

童話のページに戻る

  
  たびぃ は トラの子供です。

  生まれてから もうすぐ1年になります。 たびぃ は それが嬉しくってなりません。


  ある日 はげたかのおやじさんが たびぃ を見て言いました。 

  「坊や。おまいさんは 見たとこ もう 一つ てとこだな。」

  たびぃ は  元気な声で 「うん!」て 答えました。  「ぼく、もう ひとつだよ!」

  はげたかは 自分のはげた頭をぼりぼり かきながら 

   「うー−ん。ちと 違う風に受け取ったんじゃないかな・・・。」 

  おやじさんは なにやら 口の中で ぶつぶつ つぶやいています。

  たびぃ は 「はげたかの おやじさん。どうしたの?」と たずねました。

  「いや 何。なんでもないさ。 で、おまいさんは これからどこへ 行くんだ?」

  「ぼくは これから 泉に行くんだ。 おやじさんは 知ってる?」

  「おぉ、 知っとるぞ。 わくわく泉じゃろう。」はげたかは つばさを ばっさばっさと はためかせて

  「よし! 今日は わしも いっしょにそこへ 行こう。」と言いました。

  たびぃ は 嬉しくなって言いました。「本当? わぁい。 いっしょだね」

  はげたかのおやじさんは たびぃ の少し上のあたりを ゆっくり飛んで たびぃの歩く速さに合わせました。

  
  はげたかには 泉に行くなんて ほんのひとっとび だったのですが

  その日は たびぃ といっしょにすごしてみたいと思ったのです。  

 

 


  


   ちょこ ちょこ とこ とこ。

  たびぃは歩きながら 歌いはじめました。

  ♪ぼっくっはぁー  たびぃだよ ぼくはっ トラの子さ。

  ♪ぼっくっはぁー しましまさ 黄色とっ 黒のしまさ。


  はげたかのおやじさんは その歌を聞いて 言いました。

  「たびぃ、とやら。 おまいさんは 黄色と黒のしましまだな。」  「うん!」たびぃは 元気いっぱい答えました。

  「それじゃ 知っとるかい? おまいさんとおんなじ色のやつがいるよ。わしの友達でな、ひとり おる。」

  「え? それって  トラのこと?」 たびぃが聞くと はげたかは答えました。

  「いやいや。 トラじゃない。そいつは・・・ちがうもようをしておる。 かわったやつでな。」

  「?? どんなもようをしてるんだろう?? 」 たびぃが考えていると おやじさんは笑って言いました。

  「く く く く!  泉に行ったら会うだろう。そん時 紹介してやるよ。かかか!」


 

 


  しばらく行くと 泉に近づいてきました。  わくわく泉です。

  坂をのぼりつめた所で 泉が見下ろせます。

  たびぃは おかあさんと他の兄弟と いっしょに、泉に訪れたことがあり、今回は

  たびぃには 初めて一人で行く坂でした。 あ、はげたかのおやじさんも一緒でしたね。 

  泉には しまうまの群れが来ていましたが 帰っていくところでした。

  たびぃは泉のほとりにつくと 水を飲みました。

  その時 どこからか声がしました。はげたかのおやじさんが「おい、ちょっとさがれ」と言いました。     

  たびぃおやじさんといっしょに泉から少し離れると

  「ひゃっほ−−−−い!!!」という声と共に 泉のまん中に大きな水しぶきが上がりました。

  何かが 泉のまん中に飛び込んだようです。

  よーく見てみると ピンクの色が見えます。そこにたくさんの黒い点も見えるようです。

  そのピンクの動物はこっちにやってきました。

  「よぉ!! おやじさん。また会えたな!」と話かけてくるではありませんか。

  おやじさんは目を丸くして 「お。おまえ、何て色をしているんだ??」

  ピンクの動物は たびぃに「こんにちは」と挨拶してくれました。

  たびぃは あわてて「こんにちは」と答えるだけで 精一杯でした。

  ピンクの動物は はげたかのおやじさんのお友達のようです。

  

 


   

   
   「あれ? まだ言ってなかったっけ? ぼくはこの前の満月の夜に この色になったんだよ。」

   とピンクの動物は言いました。「ピンクと呼んでね。よろしく 」

   「はい。ぼくはたびぃと言います。」 ふたりは握手をしました。

   

   おやじさんは はげた頭をかきながら「おまえは 頭がどうかしたんじゃねぇのか?」

   と言いました。

   ピンクさんは「うん。似合うでしょ?」と ニコニコしています。

   「動物っていうのは 自然の色でいるもんなんだ!!」とおやじさんが叫ぶと、

   「何で?」 とピンクさんは尋ねました。

   「自然の色でなければ そんなに目立ったら おそわれてしまうぞ」

   「この僕をおそうような動物なんている?」ピンクさんは両手を上にあげて くるりと一回りして見せました。

   おやじさんは 言葉をうしない、「あいかわらず その脳天気な所は昔から変わらないな。」と

   つぶやきました。

 


    

    「これもはじめは ピンクじゃなかったんだ。」と腕のあたりをさしながらピンクさんは言いました。

   たびぃは 聞きました。「え?ピンクの前は何色だったの?」

   横からおやじさんが「はじめは おまいさんと同じ黄色に黒だったんだよ。」と

   言うと、ピンクさんは「あ・ま・い」と言いました。

   二人がびっくりしていると ピンクさんは言いました。

   「ピンクにする前は 金だったんだよ。ゴールド!」

   「え??」 「金色のところに黒の水玉もようだったんだ。」

   「へえぇー−−−−????」

   「だって、ひょうきんって言うじゃない? 豹は金でなくっちゃ。」

   「駄洒落もいいかげんにしろって。おまえはそのままで十分ひょうきんだ!!」おやじさんが叫ぶと    

   「ありがとう」ピンクさんはにっこりして 言いました。

 

ページの上に戻る

 

  
  「ピンクさんは もともと金の豹さんだったけどピンクのピンクさんになったて言うこと?」とたびぃが言うと 

  ピンクさんは   「いやいや。一番初めは たびぃくんと同じ色あい。

  黄色に黒の・・・ もようがしましまじゃなくて水玉もようのふつうの豹だったんだよ。」と答えました。

  「じゃあ。どうして変えたの?」と 聞くと ピンクさんは うぅーーーんとね、と 少し考えて話してくれました。

  「あの時 ぼくは 好きな女の子がいて、なんとか仲良しになれないかなぁと 思ってたんだ。

  そしたら 彼女は“わたしは地味な豹はきらいよ”って言ったんだ。 それでぼくは〜豹の中の豹!

  黄金の豹! ひょうきんになってやる!〜って 決めたんだ。」

    たびぃと おやじさんは 息をのんで ピンクさんの話を聞いています。

  「ある満月の夜。ぼくは 世界中の豹があこがれる パンサージャンプのところに行ったんだ。

   海のむこう 世界の果てまで 魔法使いパンサージャンプは知られている。。。

   なんてったって 体の端から端まで 頭からしっぽの先までが 全部輝くピンク色なんだよ。

   そこでばくは 自分の悩みを語ったんだ。そしたらジャンプは言った。

   “豹は豹でいればそれだけでひょうきんだ。自分らしさを大切にしなさい。”

   でもぼくにはまだ不満だった。もっとひょうきんになりたいんです、と言った。

   そしたら “今夜は満月だ。この近くにヘナの草原がある。知っているだろう?そこで祈りのダンスを

   満月にささげなさい。月とヘナの力で 君の望む自分の変えてくれるよ。

   しかし、おぼえておきなさい。それは 外側だけで 君のなかみは君自身で変えるのだ。”と教えてくれた。

 
   そこで ぼくは ふつうの豹から ひょうきんになった。そして今 ピンク になったのさ。

   黒の水玉はあいかわらず あるけどね。」

 

 

   
   ピンクさんの長い話を 聞いて たびぃは こんな世界もあるんだ、と感心していました。

   そこへはげたかのおやじさんは 頭をかきかき聞きました。

   「それじゃ 色を金にしたり ピンクにしたり、して、彼女とは仲良くなったのかい?」

   「うー−ん。それなんだが。 色を変えたとたんに “あなたにはついていけない”と言うんだ。」

   「なんだい、そりゃ?」

   「どうやら こんな風だと良いな、と思ってた通りにしたら 具合が悪いらしい。夢は夢のままでよい・・・らしい。」

   「何てこったい。」「えぇー− どうしてェ?」と おやじさんと たびぃが 肩を落としてつぶやくと、

   ピンクさんは にこっと笑って言いました。

   「良いんだよ。 色を変えたことで かえって ありのままのぼくでいられる、と気がついたんだ。

    ぼくは 昔から こんなぼくだった。色を変えても変える前も。同じぼくなんだ。

    彼女のことは がっかりしたけど。 でもね ひょうきんなぼくを そのまんま出すのに この色が

    とても楽なんだ。 だからもういいんだ。」とピンクさんは言いました。

ページの上に戻る

   
    しんみりとしたので 気分を変えよう、と 三人は泉で 水遊びをしました。

   そこへ やってきた象の親子づれもいっしょに加わって 皆で 水をかけあい、もぐったり泳いだりして 遊びました。

   一息ついて、 おやじさんは たびぃに言いました。

   「たびぃよ、おまいさんは けさ 『ボク、ヒトツ!もうすぐ一つになるんだい』て 喜んでいたな。」

   たびぃは 目をまんまるくして、 うん! て答えました。

   それを聞いて ピンクさんは 「へぇー凄いな。もう、一つになるのか。ひとつ・・・・・・」と何やらぶつぶつと。

   「どうして ぼくが一つになるんだい!って言うと みぃんな 何かぶつぶつ言うの?」

   たびぃがたずねると おやじさんピンクさんは 「説明するのがむずかしいなぁ〜〜」と頭をぼりぼりかきます。

 
   「ひとつって ことを 説明するのが良いのでないか?」と 横から声がしました。

   ふと見てみると ゾウガメがいました。

   「ここは わしが ひとつ 『ひとつ』について説明してみようかのぅ」

 


   

  「坊や。 名前はたびぃ君 だったかね?」と ゾウガメがたずねました。

   たびぃは 「はい!」と答え、ゾウガメをじぃっと みつめました。

   たびぃは ゾウガメの顔や手足などに刻まれた沢山のしわを見て

   「ゾウガメのおじいさん、お年はいくつなんですか?」と たずねました。

   ゾウガメは「そうじゃなぁ。もうこの頃、としは数えんのでわからんよ。計算は得意でないんでな。」と答え、

   たびぃは 「へえぇーーー」っと 感心しました。


   「としを重ねて重ねるごとに 物事がわかるようにもなるし、わからんようにもなるもんじゃ。」

   たびぃには、 わかると言ったりわからないと言ったり、で 何の事だか理解できませんでした。

   頭をひねっているたびぃに ゾウガメは尋ねました。

   「さっきからの話だと たびぃ君 きみは もうすぐ1才になるんだってね。」

   「はい! そうでっす☆」 たびぃは元気良く答えました。

   「1才になったら 何がしたい?」ゾウガメに聞かれて たびぃは 「 うん。もっと大きくなりたい!」と答えました。

   「2才になったら どうじゃ?」 「うん。2才になったら 今度はそれよりもっと大きくなりたい!」と答えました。


   2人のやりとりを横で聞いていた おやじさんは 頭をかきかき、間に入ってきました。

   「おいおい。たびぃー。 変だなぁ。おまいさん、もっと他にないのかい?」

   「他にって??」 

   「だって 1才なら1才の 2才なら2才の こうしたいってのがあるだろう?」

   たびぃは おやじさんがどうして あせをかいているのか わかりませんでした。

   ゾウガメは笑い出しました。

   「ふふぉっふぉっふぉ・・・。たびぃ君。すばらしいね。 君は変なんかじゃない。それでいいんだ。」


   ゾウガメは おやじさんの方に向いて言いました。

   「おやじさんも 昔たびぃ君くらいだった頃があるじゃろう。 その時はどのような子供でしたか?」

   おやじさんは「ぅうー-ん。」と腕を組み 頭をかいて 考えました。

   「そうだなぁ。 わしは 生まれた時から はげておった。 他の鳥と違って どうして頭がはげているのか

   疑問で 小さい頃は特にそれを考えておったなぁ。」と 又頭をかきかき 答えました。

   「それで答えが見つかったのかな?」と ゾウガメが聞くと おやじさんは羽根をばたばた動かしながら

   「いや。答えは見つからなかった。  おっ母に聞くと

   『おまえはなぜいつもそんな事を考えるのか不思議でならない、私はいつもおまえを不思議だと考えている』と言うし。

   おっ父に聞くと 『他の鳥と違っているのが疑問なのか? それならば聞くが 同じハゲタカどうしでも

   おまえはおまえで、わしはわし。 違っているじゃろう。 それもなぜなのじゃ?それも疑問じゃ。。。』と

   さらに 難しいことを 言ってくるし。 訳がわからなくなってくるので考えるのはやめた。」

   と ため息をついて 答えました。


   ゾウガメは しばらく考え、 「ふうむ 答えはないのかもしれんな。」と 言いました。


   「そうか。答えはないのか。 それならば なんであないな ずっとずっと考えておったんじゃろうか。

    もっと他に考えること なかったんかなぁ〜?」と おやじさんが ぶつぶつ言うと 

   ゾウガメは あわてて言いました。

   「いやいや。 そういうんじゃなくて答えは自分でみつけるので 絶対的な答えじゃないかもしれんよ、って

    言う意味だよ。 そこで寝ておるピンクさんも 自分で色をいろいろ変えていく事で 自分らしさというのを

    つかんでいったのじゃろう。」

    皆 かたわらで眠っているピンクさんを 見て ふむふむと うなずきました。

    それを見て たびぃも眠くなってきました。 ふあぁーー。。。あくびをして ピンクさんの横で眠りはじめました。


    「“おやじさんは おやじさん”で  “おっ父さんは おっ父さん”。 みんなそれぞれで、自分のじんせいってのを

     生きてるんじゃないかね?」

    ゾウガメが話し終えると はげたかのおやじさんは 「フム。」と短く うなり、しばらく考えていましたが

    いつのまにか 眠りに入りました。

   

 

 

    

  ゾウガメのおじいさんは 皆が寝ているのを ながめると 歌を歌いだしました。

   ゾウガメの一族に 昔から歌い継がれてきた ねむりの国の歌 です。


   
♪ゆーーらーー ゆーーらーー 君がねむるとーき

    ふーーらーー ふーーらーー  風が さそうーよー

    すーーやーー すーーやーー  やわらかくねむーれー

    ゆーーれー   ゆーーれー   みんな おやすみーー♪

   

ページの上に戻る

   

  気がつくと 朝になっていました。

   たびぃが目をさますと ピンクさんが泉で じゃぽーーんと 遊んでいました。

   「おっはよう--!」 ピンクさんたびぃは 水浴びをしました。

   「気持がいいねぇーー」 ゾウガメのおじいさんも起きてきて泉に入ってきました。

   背中の大きなこうらにふたりを乗せて おじいさんは 泉をゆっくり泳ぎました。

   「わぁー-い!」


   ゾウガメは言いました。「わしは歩くのは遅いが 時間がかかっても必ず行くんだ。

   ピンクさんや たびぃくんは 思ったら即動くじゃろう?」

    ふたりはこうらの上で 聞きながら うなずいていました。

   「どっちが 良いって 訳じゃないんだよ。 わしらゾウガメにはおまえさん達のようなマネはできない。  

    それと同じで おまいさん達にも ゾウガメのマネは出来ない。それでいいんだよ。

    おまいさん達はおまいさん達のやり方ってのがある。 わしらには わしらのペースってもんが

    ある。 それを両方とも わかってりゃ 何も問題はありゃーせん。比べる事もない。」

    2人は 言葉もなく ただただ うなずいて しみじみと思いにふけりました。

 

   

  はげたかのおやじさんが 今めざめたのか 皆のいる泉の方に飛んできました。

   「やぁ! みんな おはよう。」ばっさばっさと翼をはためかせて こうらの上にとまりました。

   「おやじさん。よく眠れた?」たびぃが聞くと 「おおっ。 よーー眠れたよ。」と元気がよい様子。

   「よ。おじいさん、昨夜はありがとうよ。ずっと長い間のもやもやがすっきりした感じだよ。」

   ゾウガメはにっこりして「そうかい。 それはよかった。。」。

   「しかし 何だな。はげたかは何で 頭がはげてるのか、っていうの わかったよ。」

   「え? それは どうしてなの??」とピンクさんが尋ねると

   おやじさんは 両羽根をくみながら ふっふっふ と笑い、

   「はげてるから はげたか、と言うんじゃないか! ふっふっふ凄いだろう。」と言いました。

   ピンクさんは「なぁんだ。。。」と言いました。

   「なぁんだ、じゃないよ。これは大きな事だ。

    わしは、はげたかであるからして わしの頭ははげたかのはげたかたるゆえんだ。」

   たびぃは 眉をひそめて「おやじさん。難しい言葉は ぼくにはわかんないよ。」と言いました。

 
   おやじさんは 「お。そうか。 よしよし。つまりだな。

   わしは はげたか だから 頭がはげている。 それを 受け入れて 胸を張って頭を高く

   堂々と 今日も一日 わしは生きていくのさっ☆」と言うと 大きく羽根をひろげて

   空に飛び上がり 「それじゃなーー 面白かったよ!わしはこれから朝ご飯だ。又会おうぜ!」

   と言って どこかへ 飛び去っていきました。

   たびぃも おなかがすいているのを思い出しました。

   「ぼくも朝ご飯!! おかあさんの所に戻るよ。」と言いました。

   ピンクさんと ゾウガメのおじいさんの ふたりはまだ用があるらしく、 たびぃは ひとりで

   泉から おうちへ 帰る事にしました。

 

   

  帰るみちみち、たびぃは きげんよく 歌を歌いました。

   ♪ぼっくっはぁー  たびぃだよ ぼくはっ トラの子さ。

  ♪ぼっくっはぁー しましまさ 黄色とっ 黒のしまさ。

 

    

ページの上に戻る

童話のページに戻る

inserted by FC2 system